『経営労働政策特別委員会報告』(2017年版)批判

『経営労働政策特別委員会報告』(2017年版)批判

合同・一般労働組合全国協議会事務局長 小泉義秀

はじめに

1月17日に「経営労働政策特別委員会報告」(以下「報告」)が出版された。2017年版のサブタイトルは「人口減少を好機に変える 人材の活躍推進と生産性の向上」である。「序文」の冒頭で会長の榊原定征は「安倍政権が4年間進めてきたアベノミクスによって、景気は緩やかながら着実に回復している。企業収益も全体として見れば高水準で推移しており、多くの企業が2014年から3年連続して大幅な年収べースの賃金引上げを実施して所得も増加している。」と書いているが、こんな嘘を誰も信用しない。「長時間労働を前提とした従来の働き方を見直し、働き方・休み方改革の推進と、多様な人材の活躍促進によって飛躍的な生産性向上を実現する絶好の機会が到来している」とも書いているが、これも全く逆のことを述べているのはすぐわかる。長時間労働の見直しと言いながら、過労死自殺した電通の高橋まつりさんの事など眼中にない。2017年版「報告」は「序文」から破産している。

長時間労働是正と言いながら過労死促進

長時間労働是正、働き方改革の核心は残業代をゼロにし、労働密度を上げて、労働強化を行い企業の収益を上げるということだ。
「業務改革の推進や柔軟かつ創造的な働き方の拡大などにより、社員一人ひとりの仕事の付加価値を高め、企業の成長へとつなげることが肝要」「業務の集約や裁量労働制・フレックスタイム制の導入による時間外労働の削減」(同4頁)とあるように時間外労働の削減は裁量労働制やフレックスタイム制導入などの8時間労働制の解体によって行い、さらに「業務の集約」という労働密度の強化、労働強化によって「付加価値」を高めるというのである。
「1人の社員が1時間で生み出した付加価値額や処理した業務件数など自社の実清に応じた指標をKPIとして設定し、PDCAサイクルを回すことも有効である。(同10頁)と書かれていることからもその意図が良く見える。KPIとは重要目標達成指標のことであり、「PDCAサイクル」とはPlan(計画)、Do(実行)、check(評価) Action(改善)を繰り返し、生産性を上げていくという業界用語である。

人件費削減のために非正規雇用を拡大

「第1章 企業の成長につながる働き方改革・休み方改革」の「6、非正規労働者の現状と課題 (1)非正規労働者の現状」に以下のように書かれている。
「非正規労働者数は6年連続で増加して、2015年には1,980万人となり、雇用者に占める割合は37.5%となった。しかし、労働者の属性や非正規雇用を選択した理由はさまざまであり、総数や比率が増加したことだけを捉えて問題視するのは適当でなく、実態を十分に踏まえた議論を行う必要がある。総務省の調査によると、非正規労働者の7割近くは、世帯主の配偶者が家計の補助的な収入を得るために、パート・アルバイトとして働いていることがわかる。また、定年後の再雇用者の増加により、60歳以上の割合が25. 9%に上る。不本意非正規労働者と呼ばれる、『正規の職員・従業員の仕事がないから』を選んだ者は3年連続で減少し、2015年は315万人(15.9%) であった。その他は、『自分の都合の良い時間に働きたい』『家計の補助・学費等を得たい』などの理由で、自ら望んで非正規労働者を選択しており、その割合は8割以上を占める。」(同39頁)
「報告」のこの部分に関する記述は毎年一貫している。自ら進んで非正規雇用を選択した労働者が圧倒的に多いのであって、非正規雇用が増えたことを問題視するのが間違いだ、というものである。しかし、この部分を毎年批判するのであるが、ここには経団連のごまかしがあるからだ。自らにとって統計を都合の良いように使っているだけで、これでは非正規雇用の実態をつかむことはできない。
第1の問題は、「不本意非正規」の割合を年齢別に分析することから逃げている点である。総務省の「労働力調査(詳細集計)」(2016年平均)によれば働き盛りの25~34歳の「正社員として働く機会がなく、非正規雇用で働いているもの(不本意非正規)」の割合は26・5%になる。35~44歳も17・9%である。2016年平均は16・9%に上昇しているので、3年連続減少という記述は意味がない。非正規雇用労働者はずっと増加し続けていて、65歳以上の割合が増え、パート・アルバイトという雇用形態が増えているのである。
第2の問題は、賃金が圧倒的に低いことを隠ぺいしていることだ。「パートタイム労働者の時給は近年上昇傾向にあり、2006年に初めて平均で1000円を超え、2016年(1~11月平均)には1106円まで高まっている」(同40頁)とあるが、「厚生労働省『賃金構造基本統計調査』でみた2014年のパートタイム労働者(正職員・正社員以外)の平均年収は111.2万円と一般労働者(正職員・正社員)の515.9万円を大きく下回る。」(「三菱UFJリサーチ&コンサルティング」の調査レポート 2015年7月31日)のであって部分的時給の都合の良い数字だけ取り出しても意味がない。年収100万でどうやって生活していくのか。
第3の問題は、非正規雇用労働者総体をひとくくりにして、その実態を見えなくしていることだ。
「報告」は非正規という呼称はネガチィブな印象を与えるから「有期契約労働者」とか「定年後継続雇用労働者」など別の呼称とすべき(同43頁)と書いているが、これが安倍のいう「非正規雇用という用語を無くせ」なのだ。灰色をねずみ色と変えても色が同じように、非正規雇用という形態の呼称を変えても非正規雇用の現実を変えることはできない。
例えば前掲「三菱UFJリサーチ&コンサルティング」の調査レポートは非正規雇用を4つのタイプに分けて分析している。4つとは①学生バイト層(24歳以下男女)、②主婦層(25~54歳女性)、③中年フリーター層(25~54歳男性)、④セカンドキャリア層(55歳以上男女)。
このように分類したうえでその分析すると非正規雇用労働者の実態が少し浮き彫りになる。
このレポートによれば、②のタイプはパートが多く、年収は半数が100万円未満である。③は正規雇用につけないために非正規で働いているため、長時間労働やダブルジョブを行っている。①のタイプは就業時間や就業日数もその数も減少傾向にあるが、④のタイプが増えているのである。
「現在では非正規という雇用形態が広がり始めた頃から働いていた人々が、そのまま働き続けていることも、年齢の高い非正規雇用者を一段と増加させている。正社員と比べパートやアルバイトなどの非正規雇用は比較的就きやすい。しかし、非正規雇用で働いている人が正規に変わることは難しい。」(同レポート)の分析は重要な点だ。
「産業別の非正規雇用比率と実質GDP (国内総生産)の関係をみてみると、製造業を除く業種では、実質GDPが大きいほど非正規雇用比率が高くなっている。また、2004年から2013年までの約10年間の実質GDP成長率に対する寄与度が大きい産業ほど、非正規雇用比率が高い。多くを生産するためにはその分雇用者も必要となるがそうした産業ではなるべく人件費を抑えるために非正規雇用を多用してきたと考えられる。逆に、非正規雇用比率が高い産業が伸びたために、非正規雇用者数が一層増えることにもなった。」(同)という記述も重要である。
「報告」はあたかも労働者が望んで非正規雇用労働者を選択しているように描いているが、企業が非正規雇用者を活用するのは「賃金節約のため」が最大の理由であって、資本の側の都合に過ぎない。資本は非正規労働者を雇用して、賃金を下げることで利益を上げている実態が同レポートから明らかだ。

働き方改革と称する8時間労働制の解体攻撃

第2章は「雇用・労働における政策的な課題」として「1、労働時間制度改革の推進」「2、同一労働同一賃金の実現」という項目が展開されている。「高度プロフェッショナル制度については、残業代ゼロ制度という一方的で誤った捉え方をされている」(同48頁)と書かれているが、一方的でも誤った捉え方でもない真実だ。
同一労働同一賃金についてもガイドラインが出されて、業績評価制度に基づく成果主義・能力主義賃金であることが明らかになり、同一労働同一賃金に対する「幻想」は吹き飛んだ。
2016年版には「個別労働紛争の動向と対応」で合同労組に対する言及があった。今回はそれに代わってトピックスで「問題が顕在化する前に、社員の不満や問題発生の予兆をできるだけ早く察知できるよう、機会を捉えて自社における未然防止策や紛争解決システムの確認・整備を図るなど、日頃からの備えが不可欠である」(同65頁)と記されている。これは合同労組の結成を未然に防ぐ、情報網の整備等と同様の意味である。配偶者控除の問題もトピックスで触れられている。
総体として国鉄分割・民営化の全社会化、非正規雇用を推進し、8時間労働制の解体と賃下げで新自由主義資本の生き残りを図ろうとする破産的な内容である。
合同・一般労働組合全国協議会の組織強化で反撃していかねばならない。