”労働相談”ニュース 「震災を口実にした“便乗解雇”」

”労働相談”に関するニュースとして、紹介します。

会社員は泣き寝入りしかないのか? 震災を口実にした“便乗解雇”

Business Media 誠 4月15日(金)11時48分配信

国内観測史上最大のマグニチュード9.0を記録した東日本大震災が発生し、1カ月が過ぎた。死者・行方不明者の数は日を追うごとに増え、依然として被害の全容が正確に分からない。雇用不安もまた、目に見える形となって現れてきた。

東北の地方紙・河北新報社によると、東北の各労働局への雇用に関する相談は3月28日現在、青森、岩手、宮城、福島の4県で計2万9531件。内訳は、宮城が2万3184件と突出して多く、次いで岩手3750件、青森1354件、福島1243件と続く。経営者と労働者の双方から相談が寄せられ、その内容は賃金や休業手当、解雇、雇用維持などについてのものが多い。

●監督署に相談者が押し寄せる

異例の事態とはいえ、労働局や労働基準監督署はこれらの労働相談にきちんとした対応ができているのだろうか。ここ数年、全国の労働局や労働基準監督署の職員らはフル稼働の状態である。2008年秋のリーマンショック以降は深刻な不況により、労働相談に行く労働者らが増え続けている。

例えば、2009年に取材した都内の監督署では年間1100件の相談に対し、10人ほどの監督官で対応をしていた。年間で1人の監督官が100件以上の案件を抱え込む。労使間のトラブルは解決までに短くとも数週間、長い場合は数カ月、時には1年以上かかる。これでは、相談業務は“流れ作業”になっている可能性がある。ましてや震災以降の1カ月間で、それぞれの監督署に数千人が押し寄せている。

厚生労働省はこのような事態を踏まえ、4月5日、宮城、岩手、福島3県の労働局で計300人の職員を増員することを明らかにした。そして岩手労働局は、被害の大きかった陸前高田市で出張労働相談会を開催した。しかし、もともとの体制が不十分である以上、被害の状況いかんでは職員をさらに増やす必要があるだろう。

●第三者機関が十分に機能していない理由

今回の震災では、経営難に苦しむ経営者が社員を解雇にすることがありうるが、労基署や労働局が頼りになるのかどうかを社会保険労務士の庄司英尚さんに話を伺った。

「確かに現地の労基署や労働局は、丁寧な対応が難しいかもしれない。しかし、もともと労基署は民事不介入。解雇の有効・無効を争う場合などの相談にはのらない。相談に訪れた労働者が解雇になったとしても、職員らは労働基準法に照らし、基本的な考え方の説明しかしない」

むしろ、労基署は「今回のような震災の後では、解雇などはやむを得ないだろう」と言葉を濁して、今後の就労支援としてハローワークの支援体制などを労働者にアドバイスすることが考えられるという。

だが、私は労基署だけを責めることはできないと思う。今回のようなときにすら、労基署を始めとした公的な第三者機関が十分に機能しない理由の1つは、実は労働者が長年にわたり作ってきたからである。

私が観察していると、多くの会社員は労働法の知識を得るわけでもなく、労働組合活動を熱心にするわけでもない。不当な行為を受けても、実際、法的に争う人はごく少数。仮に例えば、労働組合ユニオンに入り、そこの役員らと一緒に労基署へ行き、事実をもとに何度も交渉すれば、監督官や職員は会社に言ってくれるかもしれない。全国いたるところで、労働者が自らの権利を主体的に守ってきたのであれば、現在のようないびつな労使関係にはならなかっただろう。

●労働者は本当に「弱い身」

庄司さんは、会社員がこの時期に気をつけるべきことは「整理解雇を始めとした解雇」と言うが、その場合も労基署は「労働者に丁寧な対応をすることは難しいのではないか」と疑問を呈する。

「例えば、労働基準法には30日以上前に解雇予告が必要とうたわれている。だが、今回のような天災の場合は、その解雇予告がいらないとなっている。いわゆる適用除外というものだが、これはあくまで事業主が労基署に申請をして、解雇予告をしなくても構わないと認められた場合に限る。しかし、会社や工場が全壊したような事業主はこの手続きを踏んでいない可能性がある。そのようなとき、労基署は事業主に“解雇予告をしない時の手続きを踏まえなさい”とは言えないのではないか」

さらに会社が全壊したわけではないが、取引先が減り業績が落ち込む場合もある。そのとき、会社は解雇をちらつかせながら、退職勧奨をしてくる可能性があるという。例えば、「このまま会社に残っても賃金を上げることもできないし、あなたの仕事もない」などと言い、辞表を書くように仕向けることである。庄司さんは「特に中途採用で入り、賃金が同世代の中で高い人はその対象になりやすい。立場が弱く、事業主からすると言いやすい人もターゲットになることが考えられる」と話す。

もともと労働者の立場は弱いのだが、このような事態になると、本当に「弱い身」であることが分かる。

大震災は、東北以外の地域にも影響を与え始めた。全国の中小企業や個人事業主などが加盟する日本商工会議所は、札幌、名古屋、京都、大阪、兵庫、高松の各商工会議所で、3月中旬~下旬に緊急調査を実施した。

それによると、震災で直接・間接の影響があった企業の割合は、名古屋が78%、大阪76%、兵庫75%、京都72%、高松61%、札幌は59%となった。その影響で最も多いのは、「仕入れ先の被災や電力不足で、部品や原材料などの調達に支障」、次に「物流の問題による原料・部品の入手困難」だった。

●震災を口実にした便乗解雇

愛知県内を拠点に活動を続ける労働組合コミュニティ・ユニオン東海ネットワークの坂 喜代子さんらは3月25日、地元の愛知労働局に「東日本大震災にともなう緊急雇用・労働問題対策の要望書」を提出した。愛知、岐阜、三重、静岡などの企業で働く組合員らの声をまとめたものである。

それによると、この地域には大手メーカーがひしめくが、契約社員や派遣社員ら非正社員の労働契約の解除が震災以降、増えたという。正社員も解雇されたケースがある。坂さんらが問題視するのは、これらの企業は震災の被害を直接受けているわけではないのに、急きょ、リストラを行っているということ。しかも、その理由の説明が不十分であること。

「組合員からその状況を聞くと、もともと会社の経営者にはこの労働者を辞めさせたいという思いがあり、震災を口実にここぞとばかりに辞めさせようとしている可能性がある。今後は、震災を口実にした便乗解雇に厳しく対処していく」

私は今回の大震災は、約20年前にバブル経済が崩壊した後、長く続いた「悶々(もんもん)とした労使関係」に終止符を打つきっかけになるかもしれないと思う。このまま「時代錯誤で、前近代的な労使関係」を続けるのではなく、いい意味で緊張関係があり、ぶつかり合う中で問題を解決していく「今の時代に即した労使関係」にしていくタイミングなのではないだろうか。

読者は、この大震災に伴う雇用不安をどのようにとらえるか。

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最終更新:4月15日(金)11時48分

Business Media 誠