4月6日、東京新聞記事。「みなし雇用」導入 先送り 派遣法改正 救い少なく 労働者保護に懸念の声

4月6日、東京新聞記事を掲載します。

【暮らし】

<はたらく>「みなし雇用」導入先送り 派遣法改正 救い少なく 労働者保護に懸念の声

2012年4月6日

  改正労働者派遣法が三月に成立したが、当初の改正案から大幅に後退した規制内容となった。特に、違法な派遣があった場合、派遣先の企業が派遣労働者を直接雇用したとみなし、身分を守る「みなし雇用制度」の導入が三年先送りされ、弁護士らから懸念の声が上がっている。 (稲熊美樹)

 「母子家庭で、娘が高校受験を控えたときに突然の派遣切り。心中も考えました」

 先月下旬、雇用問題に取り組む弁護士らが名古屋市で開いた“骨抜き”の派遣法改正に抗議する集会で、愛知県の女性(41)が訴えた。

 女性は、二〇〇三年十二月から短期間の雇用契約を繰り返し、大手電気機器メーカーの工場で基板の組み立てや試験作業に従事してきた。しかし、リーマン・ショック後の〇八年十二月、派遣会社から突然解雇を通告された。〇九年一月末に契約を解除されたため、メーカーや派遣会社を相手に、雇用の継続を求めて提訴した。

 女性は契約上、メーカーの仕事を請け負った派遣元の会社で働く請負社員だったが、実態は当初から、工場でメーカー社員の指示で働く派遣労働者。当時、製造業への派遣が禁止されており、いわば「偽装請負」だった。

 偽装請負が社会問題化したのを受け、〇六年十月に女性の雇用形態も請負社員から派遣社員に変わった。が、実際に働く場所も仕事の内容も、指示を受けるリーダーも同じままだった。

 昨年十一月、名古屋地裁は判決で「法的に雇用主の地位にないとはいえ、著しく信義にもとる」とメーカーの不法行為を認めた。しかし、訴訟で求めていたメーカーによる直接雇用はかなわなかった。

 女性は、雇用保険の失業給付を受けた後、現在はパートとして働いているが、収入は激減。娘の大学進学費用が不安だ。「派遣切り後、メーカーは一年もたたないうちに別の人を雇い始めた。私たちの解雇は必要なかったはず」と話す。

     ◇

 改正法では、派遣先が違法であることを知りながら派遣労働者を受け入れている場合、派遣先が派遣労働者に労働契約を申し込んだとみなす「みなし雇用制度」が盛り込まれた。

 違法な労働を規制すると同時に、派遣労働者が仕事を失うことを防ぐ。女性のような偽装請負も対象になるが、導入は三年後に先送りされた。

 女性の代理人を務めた加藤悠史弁護士は「みなし雇用制度が導入されれば、女性はメーカーに直接雇用されるべきケース。職を失うことはなかったはずだ」と主張する。

 名古屋大の和田肇教授(労働法)は「違法性の強い派遣の場合には、使用者(派遣先企業)が雇用責任を負うことを定めたみなし雇用制度は重要だ。これを三年先送りにしたら、違法な派遣がまん延しかねない」と指摘する。

 集会を主催した団体の一つ、東海労働弁護団の樽井直樹弁護士も「裁判所に訴えても、裁判所全体が労働者派遣の問題から目を背けようとしている」と批判、みなし雇用制度の一刻も早い導入を訴えている。

◆公約から大幅後退

 製造業派遣の原則禁止などを政権公約に掲げ政権交代を果たした民主党は、二〇一〇年四月に社民、国民新党とともに改正法案を提出した。

 しかし、企業経営者側からの反発や、ねじれ国会の中でたなざらしに。昨年十一月、民主、自民、公明三党は改正案の大幅修正で合意、三月二十八日に成立した。

 修正では、製造業派遣のほか、仕事があるときだけ雇用契約を結ぶ「登録型派遣」の禁止が見送られた。短期間の派遣も、期間を「二カ月以内」から「三十日以内」に短縮するなど規制が大幅に緩和された。

 派遣先の企業が派遣元に支払う料金と、派遣労働者の賃金との差額の比率(マージン率)の公表義務付け、派遣先で同種の業務に当たる人との賃金の均衡など待遇に対する配慮義務など改善点もある。

(写真 派遣法の改正内容に反対する派遣労働者や弁護士らが集まってかれた集会=名古屋市で)