7月11日東京新聞記事を紹介します。理由なき金曜解雇 規制緩和 失業者を生む

理由なき金曜解雇 規制緩和 失業者を生む

2013年7月11日 07時06分

写真

 外資系IT企業「日本IBM」(東京都中央区)の主任だった女性(45)が、作業の進行状況を説明してほしいと課長に呼び出されたのは、五月三十一日午後四時。会議室で五分ほど報告した時、部長が人事担当者を連れて入ってきて、いきなり文書を読み上げた。

 「会社は、貴殿を二〇一三年六月十二日付で解雇します」「業績の低い状態が続いており、もはや放っておけない」。人事担当者が続けた。「今日の就業時間終了までに私物をまとめて出て行ってください」

 頭の中が真っ白になった。席に戻り、必要なものをかばんに詰め込みながら悔しさをかみしめた。「これがロックアウト(締め出し)解雇か」

 金曜夕刻、突然社員に解雇を通告し、有無を言わさず帰宅させる。IDカードを無効にし、翌週から会社へ出入りできなくする。解雇通知書には、数日のうちに「自主退職」に応じれば退職金を上乗せするという条件も提示。住宅ローンや子どもの教育費を抱える社員は、サインせざるを得ない。

 全日本金属情報機器労働組合日本IBM支部によると、この手法が始まったのは昨年七月で、これまでに組合員だけでも二十六人が解雇された。全体の人数は分からない。解雇理由の文面には、何がいけなかったのかは具体的に書かれない。女性ら五人の組合員は、不当解雇だと会社を提訴した。同社は「係争中なのでコメントできない」としている。

 「いらなくなった人材を辞めさせたい願望は財界に常にあり、究極の形がIBMのケース。政権交代以来、雇用分野の規制緩和が盛んに議論されており、参院選の結果次第では大量の失業者を生みだしかねない」。日本労働弁護団の佐々木亮事務局長は危ぶむ。

 成長戦略について経営者らが話し合う安倍内閣の諮問機関「産業競争力会議」では、解雇要件が厳しくて企業は「人材の過剰在庫」を抱えているとし、「世界経済に伍(ご)していく」ために規制緩和すべきだという意見が相次いだ。

 長谷川閑史(やすちか)武田薬品工業社長は、金銭による解雇を提案。合理的な理由のない解雇は無効とする現行法の条文をなくし、代わりに「若手、中堅世代の雇用を増やすため」に、解雇した人数の半分以上を新たに二十~四十代から採用することを条件とすることにも言及した。勤務地や職種を特定し解雇ルールも別に定める限定正社員など「多様な労働契約」も提案された。

 議論を受け、政府は成長戦略で「行き過ぎた雇用維持型から労働移動支援型への政策転換」を打ち出した。「失業なき労働移動を実現する」とするが、ロックアウト解雇された女性は「同じ境遇で再就職がうまくいった話を聞かない。不安定な非正規雇用に組み入れられるだけ」。

 規制緩和で解雇の金銭解決が合法化されれば、たとえ裁判で勝っても職場には戻れない。「参院選は、私たちや、働く人のこれからに直結するんです」 (柏崎智子)