10月11日東京新聞記事を掲載します。過労にあえぐ運転手 「51日ぶり」休日、倒れ死亡 会社、勤務記録示さず 労基法「4週に4休日」最低義務

10月11日

 

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 人や物をスムーズに運ぶのは、快適な暮らしの土台だ。だが、企業が人件費を切り詰める中、その陰には過労にあえぐバスやトラックなどの運転手がいる。運転手が十分に体を休めなければ、命にかかわる事態になりかねない。 (三浦耕喜)

 家族によると、その日は五十一日ぶりの休日だったという。

 昨年九月二十一日、栃木県佐野市のバス会社運転手だった男性は、休みで外出した先から自宅に戻ったところで卒倒。救急搬送後に緊急手術をしたが、二日後に死亡した。死因は脳幹出血で、四十四歳だった。

 同居していた家族は過労を疑った。夏以降、休んだ形跡がなかった。泊まり勤務が多く、帰宅しても三時間程度の睡眠で、再び出勤する日が続いていた。

 家族の指摘に、会社は直前三カ月の勤務日数が空白のままの賃金台帳を示したが、通勤手当からの逆算で八月の勤務日数は三十一日、九月は二十日と推測できた。少なくとも、八月初めから連続勤務していたことになる。

 だが、会社側は勤務中に倒れたのではないと責任を否定。個人の体調管理の問題とした。通勤手当も「余分に払った」として、勤務日数などを明らかにしなかった。

 九月、一周忌を前に家族は労災を申請。弟(43)は「休みなしで働かせて、死んだら本人のせいにするのは納得できるわけがない。本人でなければ情報も出さないと言うなら、死んだ兄を連れてくればいいのか」と話す。

 運転手に限らず、労働者に週に一日、または四週に四日の休日を与えるのは、労働基準法が定める最低義務だ。繁忙期などで例外もあるが、使用者と労働者が合意した取り決めを労働基準監督署に届ける必要がある。

 労働の中身にも制限がある。特に多数の乗客を乗せるバスの場合、二〇一二年四月の関越自動車道のツアーバス事故をきっかけに、運転できる距離の制限は厳しくなった。

 運転手は客待ちや積み荷の順番待ちなどで待機時間も長いため、拘束時間にも上限が定められている。労働時間のほか、休憩や仮眠も含めた制限だ。だが、休憩時間などは労働時間にカウントされないため、待機時間を休憩時間扱いにして、賃金を圧縮する例が少なくないという。

 福岡市のタクシー会社では五分以上の客待ち時間を労働時間と認めなかったため、元運転手が賃金の差額の支払いを求めて提訴。福岡地裁は九月十九日、客待ち時間も労働時間として会社に支払いを命じる判決を下した。

 東京都内のトラック運転手(44)は「積み荷の順番を待つ間は、車から離れられない。それなのに、会社によってはタコメーターをチェックして、エンジンが回っていなければ休憩時間と見なし、その分の給与を支払わないこともある」と言う。

 厚生労働省は十月八日、運転手の労働問題で監督状況を発表。一二年に監督対象となった全国六千七事業所の82%で何らかの法令違反があった。

 労働問題に詳しい棗(なつめ)一郎弁護士は「客や周りも含めて人の命を預かる運転手は、安全こそ第一の仕事。休みも休憩も満足に与えずに運転手を疲れさせるのは、使用者としての安全配慮義務に反している」と話している。