3月14日東京新聞記事。昼夜逆転「休まらない」 適法でも事故…バス運転手の過酷実態

 3月14日東京新聞記事を掲載します。

 

 北陸自動車道のバス事故で、客の命を預かる旅客運転手の健康問題が再び浮上している。関越自動車道のバス事故などと異なるのは、労務管理上の法令違反はないのに事故を起こした事実だ。ある現役運転手は「法令自体がザルだ」と言う。 (三浦耕喜)

 証言したのは名古屋市在住の四十代男性。東京などを結ぶ路線で高速バスを運転する。男性がまず指摘したのは、法令通りに休息が与えられても実際は休めない現状だった。

 法令では乗務と乗務の間に八時間以上の休息を与える決まりがある。今月三日の北陸道の事故の前、運転手は一日の昼間に仙台市内の路線バスに乗務。二日は午後八時ごろに出勤し、同九時四十五分に仙台駅前を出発、三日午前五時十分ごろ富山県内で事故を起こした。

 乗務の間隔は二十時間以上ある。国土交通省による事故後の特別監査でも、明らかな法令違反はなかった。

 だが、男性は言う。「自分も経験しているが、昼勤翌日の夜勤はきつい。昼夜が一日で逆転し、時差ぼけになる。寝る時間をずらすなどの工夫も限度がある。特に明け方四時、五時あたりの眠気は相当なものだ」

 男性もヒヤリとした体験がある。「目は懸命に開けているのに、スーッと意識が遠のくことがある。高速道路の外側のラインは凹凸になっているが、それをガガガッと踏んで、ハッと気付いたこともある」

 夜勤明けで目的地に到着後、仮眠してから再び夜勤に入るシフトは夜行バスではざらだ。その場合も間に八時間以上の休息があれば適法だ。男性は「仮眠先までの移動や着替え、食事も含め八時間あればいいということ。実際にどれくらい眠れるのか」と言う。

 今回の事故では交代の運転手が乗務していたのに事故は防げなかった。事故当時、交代の運転手は床下の仮眠室にいた。運転手とはインターホンで連絡でき、車内からも出入りできたが、なすすべもなかった。

 男性は言う。「異変に対応するには、交代運転手は運転席の近くのリクライニングシートで休むべきです。今回の事故では現場手前六百メートルでガードレールに接触し、乗客も気付いたとか。三十秒もなかっただろうが、何かできたかも」

 だが、経営の事情が立ちはだかる。「ぎりぎりまでコストを削っているので、席は全部売ってしまいたいのが会社の本音。交代運転手のために席を空けるのは嫌がるだろう」

 バスやタクシーなど旅客運転手の労働組合「全国自動車交通労組総連」が厚生労働省や総務省のデータを照合したところ、旅客運転手が過労で脳や心臓の病気になったと労災に認定される率は、全産業平均の四・八倍。過労による精神障害の認定率も平均の二・五倍だ=図。人の命を預かる運転手の疲労は深刻だ。

 「食べ物は『食の安全』として原材料表示も厳しくなっていますが、運転手の健康は人の生死に直結する『旅の安全』の中身そのもの。『激安ツアー』の陰で、どれだけの運転手が疲れているか。多少高くても安全なものを選ぶのはバスも同じでは」。男性は安さを追い求める消費者にも警鐘を鳴らした。