「『不誠実』であるということのみをもって不当労働行為の成立を認めるべきでない」を徹底的に弾劾する!合同・一般労働組合全国協議会事務局長 小泉義秀

石嵜批判

はじめに

東部ユニオンアイ介護サービス分会の「平成26年(不再)第40号 アイ介護サービス不当労働行為事件」の中労委での再審査申立代理人弁護士=石崎信憲、山中健児、橋村佳宏、安藤源太、前嶋義大、小宮純季から提出された「補充申立書」(2014年11月5日付)を徹底的に弾劾する。石嵜・山中法律事務所は小竹運輸グループの弁護も担当しており、前嶋弁護士はアイ介護サービスの代理人と小竹運輸の共通の代理人でもある。この「補充申立書」の主張は労組法7条2号についての従来の労働委員会命令や裁判の判例を全否定した、1949年に改正された労組法そのもの、不当労働行為制度そのものを否定する暴論である。絶対に看過できない。中労委の第1回調査は11月21日からである。全国協の仲間をはじめ、多くの仲間の意見・見解を集中していただきたい。

1、「不誠実」であるということのみをもって不当労働行為の成立を認めるべきでない?

 「補充申立書」において以下のように述べられている。

「労組法72号の文言、同条号が定められた経緯、罰則の適用があることからすれば、労組法の定めを超えて、単に『不誠実』であるということのみをもって不当労働行為の成立を認めるべきでなく、団体交渉を実質的に『拒否』するに等しいほどの不誠実性がある場合に例外的に『団体交渉拒否』の不当労働行為に該当するものと考えるべきである。」(3頁)

 この主張の前提として1949年の労組法の改正において第8次案では「誠実に」という文言が入っていたが、第9次案では「誠実に」という文言がなくなり、現行の労組法7条2号となったと述べている。従って上記引用部分で述べられていることは、「不誠実」という規定や認定が「労組法の定めを超えて」いるのだから、その不誠実性が団体交渉を実質的に拒否するに等しいほどに「不誠実」である場合に限り例外的に労組法7条2号に該当するものであり、それ以外は不当労働行為を認めるべきではないという主張である。

更に「(2)自主交渉原則との関係」として「かかる憲法上の保障を背景に、日本の労働法制においては、労基法や最賃法で労働条件の最低水準を定めつつ、それ以上の労働条件については、労使間の自主交渉によることを原則としている。そして労働組合としては仮に団体交渉において行き詰まり迎えたとしても、争議権(ストライキ)を行使するという強大な権利が認められているのであるから、これを行使することによって、自己の主張を貫き通す途があるのである。それにもかかわらず、労働組合が自主交渉によって解決する道を模索することをせずに、単に『不誠実』だということをもって不当労働行為救済申立を行い、行政が、使用者に対し、団体交渉を『拒否』しないという労組法の要求を超えて、団体交渉における『誠実さ』を過度に要求することは、自主交渉原則の否定を意昧する」(同3頁)と論じている。

更に「労働組合の交渉カ・組織力の弱さは、労働組合自身の問題であり(組繊率が低いが故にストライキによる影響力が弱いとしても、それは労働組合自身の力の問題であり)、この点を行政が積極的に補完することを憲法及び労働組合法が求めているものではない。実際に労働委員会に不当労働救済申立がなされることにより、団体交渉がストップする例も多いことに照らせば、単に『不誠実』という一事をもって団体交渉拒否の不当労働行為を認定することは、労働組合の自主交渉力を減退させることにもなりかねない(以上につき、乙3 3=「労使関係法における誠実と公正」(道幸哲也2006210) 9 8頁以下参照 同3~4頁 )と続けている。

 しかしこの主張は1949年の労組法改正の意義をはじめとして、憲法制定、特に憲法27条、28条と戦後労働法制全般、更に不当労働行為という概念を全く理解しない暴論である。また労働委員会制度そのものを否定する言辞である。再審査申立人・有限会社アイ介護サービスが初審命令のポスト・ノーティスを履行しようともしない現実が労働委員会制度そのものを軽視している現れである。

『労使関係における誠実と公正』(道幸哲也 旬報社)を彼らの主張の根拠に据えているのであるが、道幸氏の著作から導き出される見解は彼らの主張とは真逆である。本書の核心は以下の点である。「第1は、組合が弱い場合を想定する。この場合には、組合の力が弱く、使用者の団交拒否に対し争議で対抗しえない。ここに、国が団結権の実効化のために交渉の場を強制的に設定する(団交拒否の禁止)必要がでてくる。団結権-団交権のシェーマであり、わが国はまさにこの型に該当する。多くの論者の団交権把握はかような観点からなされている。」「団交権の保障が自主交渉原則(団交一争議)の修正を意味していることをまず確認しておきたい」(同書 90頁)。

同書の別のところでも道幸氏は次のように述べている。

「団交権はどのような目的で保障されているのか。基本的に以下の3点からの説明が可能と思われる。その1は、団結承認である。組合の団結権を実効化あらしむるために独自の権利として保障された。とりわけ小規模会社において、組合が結成され、団交を要求したにもかかわらず、それが拒否されると組合の存続自体も危ぶまれる。そこで、交渉の場を国家が強制的に設定して、団結活動をバック・アップする必要がある。それだけ弱い、自立できない組合を想定しているわけである。わが国の場合がまさにこのケースといえよう。」(同書19頁)「その3は、実質的な『応諾』までが要請される。具体的には、誠実団交義務、すなわち交渉態度、内容における誠実さが要求されるので実質的に交渉内容に一定程度の国家関与がなされる。」(同書20頁)「第1に、団交権の保障とは団交応諾が義務つけられること(団交拒否の禁止)、換言すれば団交の場を国家が強制的に設定することを意味する。まさに直接的な団交権の保障といえよう。」(41頁)

 資本との関係において個々の労働者は極めて弱い立場にある。職場に一人、二人しか労働組合員を組織し得ていない合同労組が地域・産別的に合同して労働組合を結成し、強大な資本と立ち向かうことになるのであり、本件の場合もそうだ。不当労働行為の救済制度はそれだけ弱い労働組合を行政が守るという立場にたって制定された。資本の側は国家が強制して団交権を保証しない限りまともに団交に応じない、労働組合を認めないという立場に立っているがゆえに国家が強制的に交渉の場を設定する必要が出てくるのである。

2、戦後の労働法は「労働関係における市民法の原理とその修正」に核心がある

「現行の不当労働行為救済制度は、労組法の昭和24年改正の際に根本的に改組されたものであり(585)、使用者の組合結成・運営に対する妨害・干渉や、団体交渉拒否について、従来の私法体系では行えないような積極かつ柔軟な救済を専門的行政機関による是正措置によって実現して、労組法の労使対等の基本理念(1条1)に則し労使関係の正常化を図ろうとする制度である。」「不当労働行為禁止規定は、主として労働委員会による行政救済を念頭においた労使関係ルールであるといえる。」(『法律学講座双書 労働法』(菅野和夫著 弘文堂 第7版補正2版617~618頁)。

再審査申立人・有限会社アイ介護サービス・代理人弁護士(以下「代理人」と略す)は、前掲『法律学講座双書 労働法』が第1編総論において「第1章 労働法の意義と沿革」「第2章 憲法上の基本規定」から解き明かしているのかを理解する必要がある。

 戦後の労働法は「労働関係における市民法の原理とその修正」に核心がある。いわゆる「労働関係における市民法」は私的所有権の保証、契約の自由及び過失責任主義を基本原理として労働関係は独立対等な当事者間の自由な合意に基づく契約関係として捉えられる。その結果以下のような問題が生じたわけである。

「第1に、上記の自由な契約関係の構成のもとでは、労働者と使用者の交渉力の格差(取引の実質的不平等性)は捨象され、雇用契約の内容として成立する賃金・労働条件はいかなるものであれ、自由な意思に基づく約束の結果として法的に是認された。こうして低賃金・長時間労働などの劣悪な労働条件が契約自由の名のもとに放置され、とりわけこのような労働条件下の女性・年少者の酷使が、その健康の破壊などによって社会問題となった。第2に、労働者が劣悪な作業環境や長時間労働による疲労の結果労働災害に遭遇しても、過失責任法理が適用される結果、その補償を受けることは困難であった。第3に、雇用契約における契約締結の自由や解約の自由は、使用者のための採用の自由および解雇の自由と化し、労働者は使用者の恣意や経済情勢のおもむくままに失業の憂き目を見ることとなった。また、このような弱い立場にある労働者の求職や就職をめぐっては、営利職業紹介業などによる中間搾取や経済的および非経済的手段による強制労働(拘束労働)が行われた。第4に、労働者の自救行為としての団結活動は、市民法上の基本原則と抵触するものとして禁圧された。すなわち、労働者が団結して労働条件の基準を申し合わせ、使用者に対しその遵守を要求する行為は、使用者および個々の労働者の労働力に関する取引の自由を制限する違法な行為として禁圧された。また、団結の主要な武器としてのストライキ(労働力の集団的な提供拒否)は、雇用契約上の労働義務違反や集団的な業務阻害行為として違法とされた。」(前掲『労働法』1~2頁)。

 戦後労働法はこの「市民法」の修正として登場してきたのである。憲法272項は労働条件の決定を使用者と労働者との間の「自主交渉原則」にまかせないで、国が契約内容に直接介入して、基準を定めたのである。もし国家が介入しないで資本の自由に任せていたら労働者階級はマルクスの『資本論』が書かれていた時代に絶滅させられていた。イギリス資本主義の勃興期は国家による法的強制によって労働時間を制限しなければ資本の略奪欲は「国民の生命力の根源を侵す」ほどに無制限なものであった。だから工場法ができた。日本における工場法も同様であり、憲法27条はそういう立場で制定された。団結権、団体交渉権、団体行動権を定めた憲法28条は憲法27条と一体である。憲法28条は、「団体的労使関係に関する法規整の基本規定であるが、たんなる国の政策上の義務の表明としての性格や、国の立法・行政を制約する効果(自由権的効果)を有するにとどまらず、私人間の法律関係における一定の法的効果をも認められる。この点において同条は、憲法上の基本的人権規定のなかで特別の意義を有する。」「これらは、市民法上の自由主義的な原則を修正する新時代的な施策であるがゆえに、生存権的基本権の1つとして憲法27条および28条において宣明されることとなった。とりわけそのうちの団体交渉権は、そのための団結権と団体行動権とを含めて市民法の原則との間に厳しい葛藤を生ぜしめたため、28条において自由主義的法原則を修正する新時代の権利として明記される必要があったのである。このように28条は、沿革的にも、生存権的権利としての基本的趣旨(性格)からも、団体交渉による労働条件の対等な決定と団体交渉の助成とを基本目的とする規定と解される。いいかえれば同条は、団体交渉を中心とした労使の自治に法的基礎を与えることを本旨とする規定である。」(前掲『労働法』19頁)。

憲法28条は団結権を保証したワイマール憲法の「後見的介入」を継承しており、使用者に対して労働三権を尊重すべきとの「公の秩序」(民90条)を設定しているのである。

 以上の立場に立った団体交渉の基本原則は「双方が譲歩を重ねつつ上記のような合意を達成することを主たる目標とするものである。いいかえれば、そこにおける交渉(話し合い) は主としては合意を達成する(まとめる)ためのものであって、双方の主張や意見を対決させる(そしてそれを傍聴者に聞かせる)ためのものではない。」(同上487頁)

 代理人が引用している道幸氏の著作の立場で言えば誠実団交義務の基本的あり方は「およそ団体交渉に応ずるということは、要求に対し対案を用意し、または資料を提供する等進んで討論に参加し、一致点を見出すよう努力することを要する」(小林商店事件・長野地労委命令(昭和35. 5.4命令集22=23115頁 同書104頁)立場で団体交渉に臨むということである。

 また「使用者はたんに組合の要求や主張を聞くだけでなく、それら要求や主張に対しその具体性や追求の程度に応じた回答や主張をなし、必要によってはそれらにつき論拠を示したり必要な資料を提示する義務がある」「誠実交渉義務に反するとされる典型例は、合意達成の意思のないことを最初から明確にした交渉態度(たとえば、「当会社では労働協約締結の意思はない」と最初から宣言するような交渉態度)、実際上交渉権限のない者による見せかけだけの団体交渉態度(使用者側の交渉担当者が実際上交渉権限を与えられておらず、ただ「承っておく」「社長に聞いて返事をする」というだけで何一つ進展しないというような場合)、拒否回答や一般論のみで議題の内容につき実質的検討に入ろうとしない交渉態度、合理性を疑われる回答への十分な説明のないままの固執(たとえば、従来の基準からまったく離れた内容の回答をなし、しかもその論拠に関する具体的説明をしないままにその回答に固執する、という場合)、組合の要求・主張に対する回答・説明・資料提示などの具体的対応の不足などである。使用者が、組合の要求への回答において、合理性の認められない前提条件を付してそれに固執することも、誠実交渉義務の違反となる」(同503~504頁)

 したがって「団体交渉に形の上では応じながら不誠実な態度をとることも含まれる。すなわち、円滑な団体交渉関係の樹立という上記規定の目的から考えると、使用者が『誠実な交渉を行わないこと』は実質的な『団体交渉拒否』として規制を受けるのである。」(同602頁)

結語

 石嵜法律事務所は4月に未払い残業代の問題で敗訴した田口運送の弁護士事務所でもあり、運送会社の弁護を幅広く担当しているようである。合同・一般労働組合全国協議会が11・2に結成した「建設・交運」部会の組織化が広がるにつれて石嵜事務所の弁護士、あるいは経営法曹の弁護士との対決になる。東部ユニオンのアイ介護サービス分会の宮本組合員の雇い止め解雇の労働委員会に何故石嵜事務所が乗り出してきたのかと言えば、「社長を守る会」を標榜する竹内社労士が石嵜事務所を紹介したからである。小竹運輸においても竹内社労士と石嵜事務所が絡んでいる。団体交渉のやり方含めて不誠実団交の典型的な手口を繰り返しながら「単に『不誠実』だということをもって不当労働行為救済申立を行い、行政が、使用者に対し、団体交渉を『拒否』しないという労組法の要求を超えて」と主張し、7条2号そのもの、不当労働行為救済制度そのものを破壊しようとする輩を許してはならない。徹底的に闘う。以上