6月17日東京新聞記事を掲載します。「解雇に解決金」導入答申 規制改革会議

「解雇に解決金」導入答申 規制改革会議

写真

 政府の規制改革会議(議長・岡素之(もとゆき)住友商事相談役)は十六日、雇用や農業、医療などの分野で規制緩和策の答申を決め、安倍晋三首相に提出した。焦点の不当に解雇された労働者に支払う「解決金制度」について導入検討と踏み込んだ。農地の集約に向けた耕作放棄地の課税強化も明記した。

 安倍首相は、答申を受け「提言をしっかりと実行していくことが私たちに託された使命だ」と強調。改革実行に向け「スピード感を持って前に進めたい」と表明した。

 解決金制度は、裁判で解雇が無効との判決が出た場合、職場復帰ではなく金銭の支払いで決着する仕組み。労働者に金銭解決の選択肢ができることで早期決着が見込め雇用の流動化が進む一方、安易な解雇につながるとの問題が指摘されている。労使の代表や有識者が今後、具体的な制度設計を議論する見通しだが、利害対立で調整が難航する可能性もある。

 政府は、答申を新たな成長戦略に反映。規制改革実施計画を策定し、成長戦略と経済財政運営の指針「骨太方針」とともに月内に閣議決定する。

 答申は経済界の要望を受けた解決金制度の導入検討のほか、耕作放棄地への課税強化を打ち出した。農地は固定資産税が低く抑えられているため、耕作しない農地を保有したままでは税負担を重くする仕組みを検討する。農地集約による大規模化を進めやすくする。

 医療では、患者の服薬情報を一元的に管理する「かかりつけ薬局」の要件を明確にする。普及すれば薬の飲み残しや重複を防ぎ医療費の抑制効果が期待できる。調剤薬局を医療機関と別の場所に置く「医薬分業」について、経営が独立していることを前提に分業規制の緩和も要望した。

 理髪店と美容院が兼業できない規制を見直し、従業員が全て理容師と美容師の双方の資格を持っている店に限り兼業を認める。

 自民党の規制改革推進委員会も十六日、地域活性化に向けた規制緩和策などを盛り込んだ提言を政府に提出した。

◆経済界の意向優先

 政府の規制改革会議が答申に盛り込んだ「解雇の解決金制度」は、過去の政権も導入を目指したが労働界の反対で見送られてきたいわくつきの政策だ。経済界との関係を重視する安倍政権は、その要望に応えて再び導入を目指すが、「不当解雇が増える」と反発する声は根強く、今後の議論も難航必至だ。

 政府は労使紛争の長期化を避けるためと説明するが、「解雇が容易になる」と労働側は批判、溝は埋まっていない。制度導入は二〇〇二年と〇六年に厚生労働省の審議会で議論されたがいずれも連合などの反対で実現には至らなかった。

 経済界はその後も、規制改革要望として掲げ続けた。国際競争が激しくなる中、迅速な組織再編や人員の整理に制度が役立つからだ。

 一方、アベノミクスは三年目を迎え、政府の成長戦略で目新しい政策は乏しくなってきた。今回、難題の解決金制度をあえて重点項目と位置づけて「再チャレンジ」したことに、経済政策の手詰まり感がうかがえる。厚労省の調査では、一四年度の民事上の労使紛争に関する相談件数は二十三万八千八百六件と高水準で推移している。

 日本労働弁護団(東京)常任幹事の佐々木亮弁護士は「解雇が無効となった場合、判決が命じた支払額に上乗せして雇用関係を終わらせるという交渉は既に行われている」と指摘し、制度を新たに設ける必要性を疑問視する。今後の議論で解決金が不当に低い金額に抑えられることも懸念している。

 政府は解決金制度を、労働者側のみ選択できる仕組みにする方向だ。しかし、政府内の議論では、労働者の保護よりも、企業の活性化を重視して制度導入を目指す姿勢が際立っている。

 佐々木氏は「いずれは企業側も制度を選べるようにするなど、条件を緩めていくのではないか」と警戒している。

◇規制改革答申骨子

▼裁判で解雇が無効との判決が出た場合に、職場復帰ではなく金銭の支払いで決着する「解決金制度」の導入検討

▼耕作放棄地への課税を強化。耕作しない農地への税負担を重くする仕組みを検討

▼患者の服薬情報を一元的に管理する「かかりつけ薬局」の要件を明確にして普及を推進

▼調剤薬局と医療機関を別の場所に置く「医薬分業」を見直し、経営独立を前提に規制緩和

▼従業員が全て理容師と美容師の資格を持っている店は、理髪店と美容院の兼業を認める