◎「現代ビジネス」ーニュースの深層 「3人突き落とし殺人」直後に転落事故が発生――老人ホームで相次ぐ非人道的なトラブルは、防ぎようがないのか

インターネットで配信されている「現代ビジネス」に、川崎幸町での転落死事件とからめて、東京北部ユニオン・アミーユ支部の増員申し入れを会社が拒否したことが載りました。
以下、記事を直接貼り付けます。
◎「現代ビジネス」ーニュースの深層
「3人突き落とし殺人」直後に転落事故が発生――老人ホームで相次ぐ非人道的なトラブルは、防ぎようがないのか
2016年02月25日(木) 伊藤 博敏
■「突発事故は防げない」
目撃者はおらず、監視カメラも設置されておらず、事故処理して司法解剖もしていない――。
頼りは殺害者の自供のみ、という殺人事件としては非常に困難な捜査が予想され、「迷宮入りもありうる」とされた川崎市幸区の介護付き有料老人ホーム「Sアミーユ川崎幸町」で発生した入居者3人の連続殺人事件は、2月15日、元職員の今井隼人容疑者(23)が自供したことで急展開、一挙に解決の方向に向かった。
そのタイミングで、「突発事故は防げない」とする会社側の回答書が寄せられ、改めて、労働環境改善の難しさが浮き彫りになった事件がある。
1月25日夜、アミーユ光が丘で1階の同じ利用者が、2度もベッドから転落するとい う事故が発生。かねて、各階に職員を配置、入居者全員に目が届くような環境改善を訴えている東京北部ユニオン・アミーユ支部は、2月2日、「夜間帯1名を早急に増員して職員を配置すること」という緊急要求書を会社側に提出した。
それに対して会社側は、2月15日、事故は「一過性の体調変化による転落事故である為、事故防止の為に職員の増員が必要とは考えられません」と、拒否したうえで、次のように踏み込んで回答した。
「各フロアに職員が常駐していたとしても、突発的な居室で発生する事故は防ぐことはできません」
欠けているのは、事故を未然に防ぐという発想であり、要求拒否の底に流れるのは、増員による経費増への恐れだろう。
たしかに、同じ介護事業者「メ ッセージ(ジャスダック)」で発生しているとはいえ、連続殺人事件とは関係がない。しかし、夜間は忙しく手が回らないという労働環境は同じ。そのため介護職員の多くがストレスを感じ、今井容疑者のような殺害は論外にしても、「虐待の土壌」があることは様々な介護現場で耳にしたし、この問題が発覚した昨年9月以降、多くのメディアが報じてきた。
■それでも改善は先送り
メッセージ創業者で医師の橋本俊明会長自身、昨年9月、アミーユで発生した連続転落死や虐待が報じられた直後、職員に向けて次のように訴えている。
<本社・本部は、管理者や職員の皆さんが、処遇の難しい人に対して、日頃負っているストレスを十分に把握せず、現場任せにしていたという、 痛烈な反省を感じています>
もちろん橋本会長は、この後、虐待などの暴力行為は断じてあってはならない、と否定したうえで、次のように続けた。
<しかし、この問題を管理者、介護職員の皆さんの工夫に任せるだけでは、十分な解決は出来ないと思っています。その為の仕組みを、早急に実施していきます>
だが、環境改善にはカネがかかるという現実が、改善を先送りにする。1名増員を拒否する姿勢に、それは表れている。
回答を受け取った、労組に所属する職員がこう嘆息する。
「職員への(橋本会長の)通達は嘘なんだと思いました。会社の体制を変えるつもりはないし、体面を整えるだけで、反省なんてしてないんじゃないかと思いました」
介護現場は、 想像以上に過酷である。職員が、1名増員の要求理由を説明する。
「認知症が進み、夜間徘徊や他の居室に侵入する方がいるし、インターホンを御用聞きボタンのように押す入居者さまもいます。そうした対応に追われる一方、失禁、失便の方がいれば、車椅子やベッドからの転落もある。各フロアに職員一人は、絶対に必要だと思っています」
光が丘は4階建てで63室。これを3人で見る体制だが、川崎幸町は6階建て80室を夜勤3名で見ていた。
今井容疑者は、「腹が立った。むしゃくしゃしていた」と殺害動機を述べた。それがとんでもないのはいうまでもないが、「気分的に追い込まれる現場」ではあった。
光が丘に対する会社側回答は、捉え方によっては、「もっと厳しい職場もあ るから我慢しろ」といっているようにも聞こえ、その厳しく追い込まれる職場に川崎幸町があるのだから、橋本会長の通達が「嘘」に聞こえるという職員の感想も無理はない。
■連続転落死事件の教訓をどう生かすか
同時に、3連続転落事件とその後、次々にメッセージの施設で発覚した虐待事件は、増え続ける介護老人という環境のなか、入居老人が人としての尊厳を奪われ、「もの」として取り扱われている現実を明らかにした。
私は、本コラムのなかで<報告書入手!老人ホーム連続転落死はこうして殺人ではなく「事故」で片付けられた>(15年11月19日)と題し、警察も行政も業者も、まともに事故と向き合わない「不作為の作為」が招いた事件であることを詳述した。
健全な成人が、同じ建物から2ヶ月で3人転落死すれば、それだけで大騒ぎである。1人目で捜査本部が置かれて徹底捜査が展開されるのはもちろん、2人目が同じ建物の同じ部屋から転落すれば、威信をかけた捜査となり、解明へ向かおう。
ところが川崎幸町では、3人目の96歳の要介護3の歩行困難な身長150センチの女性が、120センチの手すりを乗り越えて転落しても事故処理。疑いの発覚は、それから半年も経って今井容疑者が窃盗で逮捕されて以降のことだった。
メッセージは、橋本会長が批判に耐えかねて会社を損保ジャパン日本興亜ホールディングスに売却した。同社は、昨年12月、ブラック企業批判を受けて業績急落の居酒屋大手「ワタミ」傘下の「ワタミの介護」も引き受けており、今年3 月までに完全子会社化するメッセージと合わせ、いきなり介護業界第2位に躍進する。
業界再編気運のなか、現在は生かされていないアミーユ連続転落死事件の教訓を、損保ジャパンを始めとする介護業者が、今後、どう生かしていくかが問われている。