2020年版経営労働政策特別委員会報告「Society5.0時代を切り拓くエンゲージメントと価値創造力の向上」を批判する  合同・一般労働組合全国協議会事務局長 小泉義秀

事務局

はじめに
「同一業種の企業の間で、経営環境や収益の動向に大きな差が生じるなど、いわゆる『春闘』が主導してきた横並びによる集団的賃金交渉は、実態に合わなくなっている。
さらに、同じ企業で働く社員においても、仕事や役割・貢献度を基軸とした賃金制度への移行・見直しによって、個々人の処遇の違いが明確化していくにつれ、全社員を対象とした一律的な賃金要求は適さなくなってきている」(96頁)
経労委報告の後半部分の結論である。春闘のような闘いは終わった。トヨタ労組のように、能力主義・成果主義を容認せよ! という内容である。「Society5.0時代を切り拓くエンゲージメントと価値創造力の向上」とい意味不明のタイトルも一皮むけば、長時間労働の容認と賃下げと賃金で差別分断をし、労働組合を解体して、労働者をバラバラに分断して、滅私奉公させる資本の側の古典的な手法である。『資本論』でマルクスが現わした搾取の方法と変わりはない。労働者は労働組合を組織して資本と闘い、賃労働と資本の関係を廃絶する以外に生きる道はないのである。

キーワードは「働き方改革フェーズⅡ」
経労委報告は毎年、カタカナの耳慣れない用語が羅列されるのでうんざりしながら読むのであるが、今年は「なおさら」の感がある。2020年版は「働き方改革フェーズⅡ」が核心である。どういうことか? 「エンゲージメント」の説明は30頁のトピックスで書かれている。
「エンゲージメントとは、働き手にとって組織目標の達成と自らの成長の方向が一致し、仕事へのやりがい・働きがいを感じる中で、組織や仕事に主体的に貢献する意欲や姿勢を表す概念と考えられる」(30頁)
このエンゲージメントを高めながら「働き方改革フェーズⅡ」に移行していくというのである。
では「働き方改革フェーズⅡ」とは何か?
「今後、企業は、インプットを効率化する努力をしながら、アウトプットの最大化に注力する『働き方改革フェーズⅡ』へと深化させなければならない。」(4頁)ということである。
投入される労働量(インプット)を効率化させながら、企業が生み出す付加価値(アウトプット)を最大化することが、労働生産性をあげる方法であり、これがフェーズⅡだというのである。
しかしながら、これをわかりやすく言い換えると、総額人件費をギリギリまで引き下げ、労働組合を解体し、正規労働者を非正規労働者と同じ位置まで持っていくということである。機械化による労働生産性の向上、技術革新などによる付加価値を増やすことは期待できない。賃下げと労働時間の延長という、『資本論』の用語を使えば絶対的剰余価値の拡大をめざす以外に、新自由主義の延命の道はないと考えているということである。だから、「同一労働同一賃金」なのである。「同一労働同一賃金」は非正規の水準に賃金、労働条件を一律に平準化するということであり、正規を無くすということである。単純明快な攻撃をおためごかしに粉飾して、あれこれ事の理解がわかりにくくするために「同一労働同一賃金」というまやかしの「理論」が使われてきたに過ぎない。
エンゲージメントという聞きなれない概念を導入しても、低賃金、長時間労働のどこに「やりがい・働きがい」を感じるというのか?

派遣法改悪と同一労働同一賃金
4月1日より、「改正派遣法」が施行される。これと「同一労働同一賃金」施行が同日施行される。以下に改正派遣法の中身が記されているが、何が起きているかというと、派遣労働者の賃金の引き下げが行われようとしている。同時に派遣労働者との『均等・均衡』を名目に派遣先の労働者の賃金が引き下げられる可能性があるということである。狙われているのは総額人件費の引き下であり、高いレベルでの『均等・均衡』が行われるわけが無いのである。
「派遣労働者については、2020年4月1日より改正労働者派遣法が施行される。派遣先企業は、法定されている派遣元への提供清報の範囲の違いなどに基づき、『派遣先均等・均衡方式』をとるか、『派遣元労協定方式』を採用するかを検討し、それに合った方式を採用しくいる派遣元を選ぶ必要がある。ただし『派遣元労使協定方式』を採用する派遣元を選んだ場合であっでも、例えば派遣労働者の賃金が協定水準を下回るなど、協定に定められた事項を遵守・実施していない場合は法律上『派遣先均等・均衡方式』が適用される。そのため、派遣先企業はこれまで以上に、派遣元や派遣労働者と十分なコミニニケーションをとり、派遣元が適正な運用をしているか、目を配る必要がある。」(42)

「ジョブ型」の雇用システムに転換していく攻撃
「ジョブ型」というのは「職務(ジョブ)・役割を遂行できる能力や資格のある人材を社外からの獲得あるいは社内での公募により対応する欧米型」(11頁)の雇用システムである。これに対して、日本型雇用システムを「メンバーシップ型」と称している。長期・終身雇用を前提に、勤続年数や職務を重ねることで毎年昇給していく年功型の雇用システムのことである。この「メンバーシップ型」が中途採用を抑制し、「雇用環境の厳しい時期に希望する職に就けなかった者の再チャレンジを困難にしており、就職氷河世代を生み出した要員の一つともされる」(12頁)などととんでもないことを言っているのである。これは首切りを促進し、正規を非正規に置き換えていく別の言い方に過ぎない。雇用の流動性を高めて、ミスマッチを無くすという言い方も同様の攻撃である。能力主義、評価制度と一体なのが「ジョブ型」雇用である。
「働く時間や場所の制約をなくし、柔軟な働き方を可能にすることが有効である」(6頁)というのも無制限・無制約に働かせるという攻撃と一体である。

Society 5・0時代にふさわしい労働時間制度?
裁量労働制がそれであるという。
「哉量労働制は、社員に裁量の幅を持たせ、自律的かつ主体的な働き方を可能にするため、Society 5.0時台にふさわしい労働時間制度である。また、裁量労働制はジョブ型の雇用システムとの相性が良い。スペシャリストとして雇用されるジョブ型社員は、その専門性ゆえに上司は最適な業務遂行方法を具体的に指示することが難しい。企業がジョブ型社員に対して業務の遂行手段や時間配分など広範な裁量を与えることで、エンゲージメントが高まり、ひいては成果も上がりやすくなる。加えて、テレワークやテレビ会議の導入など、働く場所と時間の選択肢の広げる諸施策は裁量労働制との相乗効果が期待される。」(9頁)とある。企画業務裁量労働制が当初の働き方改革法案から削除されて、未だ実現していないことにいら立っている。高度プロフェショナル制度もほとんど導入されていないにもかかわらず、「企業の増加が期待される」(10頁)と述べている。現在はどのくらいの人数になっているのか分からないが、施行されて半年の段階で適用者は1名しかいないと報じられた。破綻している現実を見据えられないのである。
「2019年4月に新たな在留資格『特定技能』が創設されたが、その活用は当初期待されたほどには進んでいない」(28頁)という記述も同様である。「特定技能」は初年度に4万7千人と試算されていたが、2019年12月13日時点で1732人である(毎日新聞)。

コンビニ関連ユニオンと合同・一般の闘いを例年になく対象化
66~67頁にかけて「労使紛争の現状と動向」というTOPICSが掲載されている。
「最近ではコンビニエンスストアのオーナーが労働組合法上の労働者に当たるかを争点とする紛争など、新たな問題への対応が迫られるようになっている。」(66頁)と書き、更に争議への対策を言及している。「思い込みで団交拒否したりすることは禁物である」(67頁)と団交応諾の義務はあると強調。しかし、「地域の経営者団体や経営法曹会議に所属する弁護士に相談するなど」(同)と書いているのは許しがたい。経営法曹の弁護士は合同労組を認めない、デタラメな対応をする輩が多いからだ。
つづく、TOPICSの「雇用類似の働き方をめぐる動向」については「多様な就労ニーズをもった働き手が自由な意思に基づき選択するものであり、過度な規制とならないような配慮が求められる」(69頁)と推進する方向で論じている。雇用類似と言い方そのものが許しがたく、労働基準法や労働法で保護されない、個人事業主扱いの労働者を増やして、搾取していこうとしているのである。
しかしながら、この請負、個人事業主が労働組合を結成して闘いに立ち上がっている。合同・一般労組は、コンビニの店長を含めたこういう労働者をも組織して闘う陣形を構築しなければならない。

結語 賃金闘争が労働組合の職場闘争の基本
2月23~24日の合同・一般労働組合全国協議会の「経験交流集会」の資料作成のために「『労働組合活動の全般的な改善をめざす新たな出発』(総評全国一般 1962年1月) 全国一般第2回活動家会議議事録」を読んで抜粋ノートを作成し、現在それにコメントと付けている。
この全国一般の会議は労働組合をどう組織し、作るのかというテーマでの会議であるが、7割は賃金闘争のあり方についての議論である。賃金闘争が労働者を団結させる最大の闘いであり、賃金闘争をそういうものとして闘うことで労働者の団結を作り上げていくのである。
「賃金問題について批判的に検討し、労働者を統一してゆくということ。この点を確認したのが第一の点であります。第二の点は、賃金によっていかに労働者が差別されているかという内容を明らかにしていくことが、とりもなおさず一人ひとりの労働者を階級的に統一してゆく道筋であるということ。今までは格差という言葉で、労働者の中にある様々な矛盾が覆い隠されていたということ。相手との関係の中で差別の内容が明らかにされていなかった。このことを徹底的に議論する必要がある。第三の点は、職場における賃金改定、賃金処理の問題と、一般的な賃金闘争をはっきり区別しながら指導されなければならないということ。このことは、全体の日本の労働運動について言えることであります。」「賃金理論を先行させることではなく、労働組合の任務についての正しい理解から出発することです。」
「したがって労働者内部の意見を調整するためには、労働者が労働力の値段というものを、自主的に提起して経営者と交渉していく体制を作らなければならない。こうなってくると、労働組合は賃金について労働者内部で上手くいくように、又敵の攻撃にくづされないような体制を作るというのが労働組合の考え方だと思います。それは相手の一切の裁量を排除するということです。労働者内部の問題として絶対に排除するということです。そうすると労働組合は各人の賃金を自主的に、公正に決めて、それでぶち当たっていくという体制を作る必要があります。
そうしますと、賃金を引き上げる際にどういう引き上げ方が必要かということになってくる。」
こういう議論を行いながら全国一般は組織をつくって行った。
資本の攻撃の手法は基本的に変わりない。この点に踏まえて先人の闘いを謙虚に学び活かしていく必要がある。
さらに、関西生コンの賃金闘争のあり方から学ぶことが重要である。関西生コンの賃金闘争は正規・非正規を団結させる賃金闘争の最高峰の闘いである。2020年版経労委報告を弾劾し、実践的に反撃してく闘いはここからである。