東京新聞記事 パワハラでやむを得ず退職・・・ 失業給付「自己都合」扱いに

2011年11月4日付け東京新聞「暮らし欄」の記事を掲載します。

<はたらく>パワハラでやむを得ず退職… 失業給付「自己都合」扱いに

「辞める」と言わぬこと

女性が手にする雇用保険の類。「ハローワークも頼りにならなかった」と話した

 職場の上司らによるいじめや嫌がらせ「パワーハラスメント」が原因で仕事を辞めることになったのに「自己都合」の退職とされ、雇用保険の失業給付で不利な扱いを受けた-。読者から生活部にこんな声が寄せられた。さらに不利な扱いを受けないようにするためにも、最低限の知識は持ちたい。 (稲田雅文)

 「自分が納得する理由でないと受け取りませんから」。中部地方の病院に看護師として勤めていた四十代女性は、七月に退職する際、上司からこうくぎを刺され、退職届に理由を「キャリアアップのため」と書いて提出してしまった。

 二十年以上同じ病院で働き、看護師長を務めていた。遠慮なく意見を言う性格からか、上司からしばしばつらく当たられ「辞めた方がいいのでは」と言われたこともある。

 二年前の異動では、あからさまな嫌がらせを受けた。忙しい部署なのに最低限の人員しか配置されず現場を回すのに精いっぱい。看護師長としての仕事ができない状態だった。

 「心が折れた」のが七月。自分とは無関係の原因で起きた職場の混乱の責任を上司から追及された。「責任をどう取る?」と迫られ、ついに「辞めます」と口にした。再び上司の顔を見る気にもなれず、用意されていた退職届に無難な理由を書き、職場を去った。

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 雇用保険の失業給付を受ける手続きのため訪れたハローワークの窓口では、離職理由の判断の手続きで「この理由で納得されていますか?」と聞かれた。

 失業給付の支給日数は、年齢や勤務年数、理由で異なる。この女性の場合「会社都合」だと、給付日数は三百三十日で離職後八日目から支給される。しかし、労働者側の理由で辞める「自己都合」だと、日数は百五十日に半減し、三カ月の給付制限がある=表。

 パワハラやセクハラなどが原因の退職も会社都合と判断される。女性はパワハラによる不本意な退職だったと説明し、異議を申し立てた。「第三者の証言が必要」と説明されたので、同僚の名前を三人挙げた。

 しかし、会社都合にはならなかった。ハローワークの担当者が、日中の職場に電話をかけて同僚三人に聞き取りをしようとしたからだ。忙しい時間帯だったり、近くに上司がいたりと、証言ができなかったらしい。

 女性は「職場に電話で確認するなんて…。パワハラは上司の言動をどう受け止めるかなど微妙な問題も含む。本人が詳細に事情を説明できれば認めてほしい」と訴える。

 ハローワーク側は「納得できないなら、もう一度判断し直すこともできる」としたが、女性は再び証言するよう同僚に頼み込む気になれなかった。

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 「まずは労働組合に入って改善を求めたり、弁護士に相談したりして、辞めないことが大切。やむを得ない場合でも、絶対に自分から辞めると言わないことです」とアドバイスするのは、東海労働弁護団事務局長を務める樽井直樹弁護士。

 同じ仕事を辞めるにも、法律的には三種類ある。一つ目が労働者と使用者の双方が合意し労働契約を解消する場合。残りの二つは片方が一方的な意思表示で労働契約を解消するケースで、労働者側が意思表示をした場合を「辞職」、使用者側による場合を「解雇」と言う。

 「使用者側が労働者を解雇する場合は合理的な理由が必要で、争う余地がある。『辞めた方がいい』などと嫌がらせを受けても、労働者側から退職届を出してしまうと不利になる」とする。

 樽井弁護士は、そもそも会社都合と自己都合で失業給付の開始時期や日数に差をつけていることにも「失業した際の生活保障という性格上、理由で差をつける合理性はない」と疑問を投げかける。