東京新聞12月8日記事「人手足りぬ教育現場」を掲載します

【暮らし】

<世代をつなぐ 12衆院選> 人手

足りぬ教育現場 増税分 どれだけ回

2012年12月8日

 神奈川県の公立中学校の男性教諭(52)は九月以降、四日しか仕事を休んでいない。運動部の顧問をしており、休日に部活動を休むと、生徒の母親から苦情の電話がかかってくるからだ。

 上級生の命令で万引をした生徒の親から、「ちゃんと上級生を指導したのか」と学校の対応を責められたことも。経済的に困窮家庭が多く、問題を起こした生徒の親と連絡を取ろうとしても、両親とも夜遅くまで働いていて電話がつながらない。放課後は近所の住民から、生徒が鳥の巣を突っついている、盲人用の点字ブロックの上を並んで歩いているなどの理由で、「すぐに注意して」と呼ばれる。

 教諭は「家庭や地域の教育力が低下し、そのひずみを学校が一身に受けている。保護者や地域の対応に疲れ、肝心の子どもと向き合う余裕がない」と話す。

 小学校入学前に基本的な生活習慣が身に付いていない児童や、障害のある子への対応が増えており、教員免許を持たない特別支援教育支援員を小中学校に配置する自治体も多い。

 東京都内の小学校で二〇〇九年から三年半、支援員だった女性(33)は「受け持った一年生のクラス四十人のうち、数人は運動場を走り回ったり、トイレに閉じこもったりして、教室に連れ戻すのが大変だった。いすに座らず、教科書を出さない子どもが十数人。担任一人ではとても手が回らなかった」と振り返る。

 日本女子大の坂田仰(たかし)教授(公教育制度論)は「核家族化などの影響で、子どもは公私の区別を教えられないまま学校に入る。さらに、今の保護者は『学校からサービスを受ける消費者』という意識が強く、学校に多様な要求をする。そこにいじめなどの問題も起きており、教員がいくらいても足りない状況」と指摘する。

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 財務省は十一月、一三年度から五年間で教職員を一万人削減する案を打ち出した。理由として、少子化とともに、文部科学省が推進する三十五人以下の少人数学級の効果について「学力、いじめなどとの相関関係が見いだせない」とした。

 財務省は教職員削減で捻出する六百五十億円のうち、半分を全国学力調査の充実やスクールカウンセラーの活用などにあて、残りの半分は国の財政健全化に回すとする。

 だが、日本の公教育支出の水準は経済協力開発機構(OECD)各国の中で最低水準。〇九年度(各国は〇九年)の国と地方の総財政支出のうち、教育機関などへの支出額が占める割合は、日本が8・9%で、調査結果がある三十二カ国中最下位だ=グラフ(上)。

 坂田さんは「衆院選では消費税増税が争点の一つになっているが、増税するなら、その分をどれだけ教育予算に充てるのか、具体的な中身の議論をしてほしい」と話す。 (伊東治子)

◆精神疾患休職 10年で倍増

 教職員の多忙さやストレスの大きさは、うつ病などの精神疾患で休職する人数の増加にも表れている。文科省の調査では、2010年度に病気休職した教職員は8660人。このうち精神疾患によるものが5407人で、休職者の62.4%。この10年間で人数は2倍に増えた=グラフ。

 現場では、団塊世代のベテラン教員が大量に退職したが、自治体は少子化に備えて正規教員を採用せず、臨時的任用教員や非常勤講師で対応している。非正規教員が教員全体に占める割合は昨年度、16%に上り、安定した職場で教員が子どもと向き合うことを難しくしている。