『2016年版 経営労働政策特別委員会報告』批判 

『2016年版 経営労働政策特別委員会報告』批判

合同・一般労働組合全国協議会事務局長 小泉義秀

はじめに

「『2016年版経営労働政策特別委員会報告』は、人口減少という国家的な課題と経済の好循環の実現への対応を念頭におきながら、賃金はもとより、多様な人材の活躍推進や、働き方・休み方改革などについてもさまざまなメッセージを込めた」(序文)とあるように「人口減少下での経済の好循環と企業の持続的成長の実現」がサブタイトルだ。会長の榊原定征は「『新三本の矢』のなかで最も重要な点は、『GD P600兆円』というチャレンジングな目標の達成にある」(序文)と、できもしない架空のプランを夢想し、「近年にない大幅な月例賃金の引上げが実現し、賞与・一時金においても、2008年以来の高い水準を記録した」(同)とデマを書き連ね、「デフレからの脱却は、もう一息のところまできている」(同)と自分に言い聞かせる。

しかし新自由主義は労働力を再生産できないところまで崩壊した。労働者を非正規化して、結婚も子供も作り家庭生活をおくることができない状態に全労働者を叩き込み、資本主義を持続させていく基盤を自ら破壊してしまった。労働者から搾取すること抜きに資本主義は成立しない。その労働者を絶滅させる攻撃が新自由主義だった。2016年版経労委報告は新自由主義の崩壊を自己暴露する破産的な矛盾に満ちた、出鱈目な内容である。特に際立つのが安倍の1月22日の施政方針演説と同じく「原発」について一言も触れず、語らずに黙殺していることだ。3・11の原発事故に一切触れずに現在進行形の放射能汚染や福島の子供たちの甲状腺がんをなかったことにするブルジョアジーの無責任体制の象徴が経労委報告だ。株の下落で年金が2016年に入り1カ月も経たないうちに数兆円吹っ飛んだ。誰が責任を取るのか? 誰も責任をとらない! 全てが他人事のようだ。スキーバス事故、労災、過労死、過労自殺…。新自由主義の規制緩和、外注化・非正規化が元凶ではないか。それらすべてを他人事のように語り、非正規労働を労働者が自ら好んで選択しているとする経労委報告を徹底的に弾劾しなければならない。

総人口1億人維持は不可能

「生産年齢人口(15~64歳の人口)は、1995年をピークに、2014年にはすでに約1000万人減少し、2060年にはさらに3000万人以上も減少すると推計されている」(同1頁)と人口減少を国家的危機と断じ、「直ちに人口減少対策に取り組めば、50年後も総人口1億人を維持し続けることは決して不可能ではない」(3頁)と論ずる。しかし、人口減少対策は新自由主義の下ではありえない。「30歳代男性の未婚率は、正規就業者が30. 7%であるのに対し、非正規就業者は75. 6%と正規の2. 5倍に上る」(同39頁注)とあるように非正規の青年は結婚することも子供を作ることもできない状況に置かれている。この根本原因が人口減少の核心にある。したがって外注化・非正規化が生命線の新自由主義は人口減少を解決することはできないのだ。

「新卒者の卒後3年以内の離職率は、大卒者が約3割、高卒者が約4割で推移しており、若年層における高い失業率の要因の一つになっている。若年期における離転職の繰返しは、職業生涯にわたるキャリア形成に悪影響を及ぼす恐れがあるだけでなく、結婚や出産の時期の遅れにもつながることから、人口減少への対応、少子化対策の観点からも深刻な問題である」(7頁)と適格な分析を行いながら、別のところでは転職を賛美している。それが「第2章 雇用・労働における政策的な課題」の「4、非正規労働者の現状と課題」の箇所だ。

「2014年の転職者数をみると、定年退職となる60歳を含む55歳以上の世代を除けば、非正規から正規へ雇用形態が転換した者の方が多く、特に15~34歳では正規から非正規へ転換した者が14万人に対して、正規へ転換した者は23万人となっている。」(同39頁)と非正規から正規への転職が増えているかのような数値を出している。しかし、ここの数値の根拠は示されていない。総務省統計によれば転職者比率が最も高いのは15~24歳で男性が10・2%、女性が12・7%であり、2014年平均が男女合計で4・6%だ。青年の離職・転職率が際立って高いことがわかる。この数値は青年が不安定な雇用形態にあり、長く勤めていない現実の現れであり、経団連がそれを良いことのように描いているのは許しがたい。

残業代ゼロ法案・企画業務裁量労働制改悪を目論む

「働き過ぎ防止に寄与する法整備」の項では「年間に年休を1日も取得していない正社員が16.4%もいるなか、取得率が低い者ほど長時間労働の傾向にある時間労働の傾向にある」「.60時間以上労働した正社員のうちの27. 7%が年休取得率0 %の者であった」(同32頁)と働き過ぎの実態を暴露しながら、次の頁で「近年、労働時間と成果とが必ずしも比例しない仕事が増加するなか、労働時間に比例して成果も上がる労働を前提とした現行の労働時間規制に替わる新たな仕組みが求められている」(同33頁)と「高度プロフェッショナル制度」導入推進を語る。「残業代ゼロ法案という一方的で誤った捉え方している向きも多いが、この制度は、高い年収が確実に見込まれることを要件としており、制度を選択して賃金が下がることは制度導入の主旨からしてもあってはならない。その意昧で、この法案は『高年収保障型成果給』実現法案とも呼べるものである」(同33~34頁)と新語で誤魔化そうとしている。企画業務型裁量労働制については本人同意が原則だから良いんだと言い方で導入しようと改悪を目論み、フレックスタイム制についても清算期間の上限を現行の1カ月から3カ月に延長しようとしている。期間が広がれば広がるほど労働時間規制が曖昧になる。

改悪派遣法については「1999年以来の大改正と」と賛美し、「今回の改正法のべースとなった労働政策審議会の建議文では、2012年改正の見直しも掲げられていたところである。前述の労働契約申込みみなし制度に加え、グルーブ企業内派遣の8割規制、離職後一年以内の派遣としての受入れの禁止、日雇派遣の原則禁止については、すでに現場で混乱を招いていることから、早期の見直し議論を開始すべきである」(同36頁)と更なる改悪を準備している。派遣法廃絶を掲げて闘うことが求められている。

労働者が非正規という雇用形態を自ら進んで選択したのか

「非正規労働者数の増加や、雇用者に占める割合の上昇を捉えて、問題視する声が多く聞かれるが、働き方を選ぶ理由はさまざまであり、その実態を正確に捉え、議論していく必要がある。」(同38頁)と、あたかも労働者が非正規という雇用形態を自ら進んで選択したかのように書いている。その根拠として引用しているのが総務省「労働力調査」だ。非正規雇用を選択した理由として、パートタイム労働者を中心に「自分の都合のよい時間に働きたいから」と回答した労働者の割合が25・2%と最も高くなっているという。一方、本人の意思に反し、「正規の職員・従業員の仕事がないから」と回答した者は18・1%に過ぎないというのである。

この総務省統計局の数値は2015年2月17日発表の2014年平均の速報値であり、この統計は男女別の数値を前面に出している。18・1%は男女合計の数値であるが、男性だけの場合は27・9%と「正規の職員・従業員の仕事がないから」が最も高い。女性の数値は13・6%のため平均すると18・1なのであって、女性の数値が「自分の都合の良い時間に働きたい」(26・3%)、「家計の補助・学費等を得たいから」(25・5%)、「家事・育児・介護等と両立しやすいから」(16・3%)となっているのは、シングルマザーだったり、育児や介護などのしわ寄せが女性に押し付けられ、正規で働く選択肢が狭められている状況の中での統計値であることに留意しなければならない。同じ総務省「労働力調査」の、転職を希望している非正規労働者が今の仕事を選んだ理由を問うている「正規の職員・従業員の仕事がないから」の数値は男女合計で34%もある。男性だけだと48%に上る。この数値は同じテーマについて別の角度からアプローチしたものとして意味がある。統計の数値をきちんと分析すると「正規の職員・従業員の仕事がないから」が圧倒的に高いことがわかる。経団連の数値は都合の良い部分だけを取り上げているに過ぎない。

したがって図表2-3「年齢別・雇用形態別非正規労働者数(2014年)」で選択的非正規労働者1631万人、不本意非正規労働者331万人と分類し、あたかも自ら進んで非正規雇用を選択しているかのように描いているのは出鱈目だ。

賃金引き上げの虚構

「賃金引上げなどの処遇改善も進んでいる。2015年の経団連の調査によると、非正規労働者に対して実施を決定した施策として、『基本給・時給の増額』と回答した企業が55. 3%と最も多く、次いで『賞与・一時金等の支給・増額』が34. 6%となっている。」(同40頁)と記しているが、これは経団連のアンケート調査に過ぎない。

「経団連の2015年調査によると、大手企業における月例賃金の引上げ額(定期昇給、べースアップ等含む)は8, 235円(引上げ率2.52%)となり、1998年以来17年ぶりに8,000円を超えた。中小企業においても4, 702円(引上げ率1. 87%)と、金額・率ともに2000年以降で最も高い水準となった。また、賞.一時金の支給額(大手企業)も3年連続で増加し、夏季・年末ともに2008年以来の高水準であった」(同55頁)とあるが経団連の一部に過ぎないのだ。

「厚労省の『毎月勤労統計調査』の労働者の平均賃金(年収)は1997年から2013年の間に、372万円から314万円になり、一人当たり58万円も低下している。…97年の平均賃金を100とすれば13年の賃金は84になる」(『雇用身分社会』森岡孝二著 岩波新書 2015年10月20日第1刷 182~183頁)が現実だ。

前掲「総務省労働力調査」によれば女性の非正規の職員・従業員の年間収入は100万円未満が46・2%であり、前年比0・9ポイント低下している。次いで100~199万円が39%を占める。女性の非正規の85・2%が200万円未満ということだ。

男性の非正規労働者の年収は100~199万円が30・7%(同0・7ポイント低下)、100万円未満が25・8%(同0・5ポイント低下)だ。200万円未満は56・8%にも上るということだ。こういう低賃金を労働者自ら望んで選択したというが安倍や経団連の主張なのだ。怒りに耐えない。

結語

生きさせろ! 食えるだけの賃金をよこせ! 派遣法を廃絶しよう! 残業代ゼロ法案粉砕! 解雇の金銭解決制度粉砕! 戦略特区攻撃粉砕! 国鉄闘争を基軸に安倍政権の労働法制改悪攻撃を粉砕しよう! 外注化・非正規職化攻撃を許すな! 朝鮮戦争の臨戦態勢を粉砕しよう!

韓国民主労総のゼネストと連帯して、ストライキを打てる階級的労働組合をよみがえらせよう! 16春闘を闘い抜こう! 2・14国鉄集会に全力結集しよう!