総論的・基礎的批判 「『雇い止め』は組合つぶし、 有期労働契約=就業規則は違法・不当

東京東部ユニオンで闘っている事例で「総論的・基礎的内容」として小泉が作成した「非正規労働」と解雇攻撃への総論的・基礎的内容として提出された書面内容を「合同労組」の闘う立場の確立を目指すものとして学習参考文献として仲間の皆さんと共有するために公開するものです。

目次

Ⅰ 不利益取扱
はじめに

1、改正労働基準法は憲法25条、27条、28条違反である

2、「雇い止め」は労働組合つぶしの道具として使われてきた

3、雇い止めの相談件数は2年で5724件増

4、有期労働契約を定めた就業規則そのものが違法・不当

5、国家戦略として非正規雇用を推進しようとする野田政権

6、有期労働契約は労働者の病気を拡大し、命を奪う

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都労委 平成24年不第40号 不当労働行為救済申立事件
申立人 東京東部地域合同労働組合東部ユニオン
被申立人 有限会社アイ介護サービス
準備書面(2)
2012年11月6日
東京都労働委員会
会長 荒木尚志 殿
〒124-0024
東京都葛飾区新小岩2丁目8番地8号クリスタルハイム203
東京東部地域合同労働組合東部ユニオン
執行委員長    小泉義秀
電話 03-6410-4329 FAX 03-6410-4369

Ⅰ 不利益取扱

はじめに

この準備書面(2)は2012年6月13日に提出した『不当労働行為救済申立書』の「三 不当労働行為の具体的事実」の①不利益取扱の項の『この点については追って準備書面で展開する』の総論的・基礎的内容である。具体的不利益取扱については準備書面(3)で述べる。
非正規雇用労働者は憲法25条、27条、28条で保障された生存権や労働基本権が保障されていないことを日々感じている。青年の自殺率が圧倒的に拡大し、結婚して子供を産み育てて次世代の社会を築いていくという青年の希望が失われている新自由主義社会は人間の社会としてすでに崩壊している。15~39歳の青年の死因の第一位が自殺だ。15~34歳の若い世代で死因の第一位が自殺というのは日本だけである(平成24年版自殺対策白書 内閣府)。青年の二人に一人が非正規雇用という半失業状態にあり、失業・半失業からうつ病になり自殺に至るケースが一番多い。
不当労働行為を争う場である労働委員会であるからこそ、有期労働契約と非正規雇用の実態に踏まえて、非正規雇用の労働者に対する不当労働行為については正規雇用の労働者以上に厳格に審査していただきたい。あえて準備書面(2)を(3)と分離したのはその根本問題を問いたいからである。

1、改正労働基準法は憲法25条、27条、28条違反である

日本国憲法25条1項は「すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する」と規定した。この生存権は、日本国憲法が保障する社会権の中心をなす権利であり、社会権の中で総則的な規定となっている。27条の労働権、28条の労働基本権などの社会権の全てを基礎付けているのが25条である。有期労働契約・非正規雇用はこの憲法25条の生存権を真っ向から否定する違憲・違法な雇用形態である。宮本組合員は労働組合員である事をもって不利益取り扱いを受け、賃金の支給総額が10万円台の時が何回もある(準備書面3で詳述)。これでどうやって生きていけというのか。生活保護の水準以下の飢餓賃金で働かせておいて、挙句の果てに雇い止めである。このような憲法25条の生存権を否定した雇用形態を生んでいるのが有期労働契約なのである。一企業の就業規則が憲法25条の上に立つような事があってはならない。
憲法27条1項は勤労の権利と義務を、2項において勤労条件の基準の法定を規定している。憲法28条は団結権・団体交渉権・団体行動権の保障を定めている。「憲法28条の自由権的効果によって、労働組合の結成・運営や団体交渉や団体行動を格別合理的理由なしに制限・禁止する立法や行政措置は、違憲・無効とされることになる」(『労働法(法律学講座双書)第9版』(菅野和夫著 21頁)
「憲法28条の生存権的基本権としての効果には、以上のように立法の要請と授権にとどまらない具体的効果も含まれている。すなわち、前示のワイマール憲法は『団結の自由を制限しまたは妨害しようとするすべての合意および措置は違法である』と規定して、労働者と使用者の関係につき労働者のための具体的な後見的介入を行っていた。」(同21~22頁)とあるように、団結の自由を制限・禁止するすべての合意事項、立法、行政措置は違法である。したがって1998年、2003年の労基法改正による有期雇用労働の上限規定そのものが違法であり、それに基づく就業規則は憲法28条の団結権の保障に違反している。労組法第7条の不当労働行為禁止の規定も憲法28条の団結権に基づくものであり、有期労働契約の合法化は団結権を侵害する立法そのものである。以下、その点について理由を述べる。
戦前、年期労働契約(期間5年が典型)が紡績工場や風俗営業などにおいて前借金、損害賠償特約、人身拘束的寄宿舎などと共に身分的拘束関係の創出に利用された。そこで戦後の労働基準法は身分的拘束関係の防止のために年期契約における期限の長さの制限をはかり、「一定の事業の完了に必要な期間を定めるものの以外は」1年を超える期間の労働契約を禁止した。しかし資本の側からの労働契約の上限規制を撤廃・緩和を主張する動きの中で、1998年の労基法改正は限定的場合において期間3年の労働契約を許容する部分的な規制緩和を行った。更に2003年の労基法改正は期間の原則的上限を1年から3年とし、一定の専門的労働者および60歳以上の労働者については上限を5年とする大幅な規制緩和を行った。
有期労働契約、限定雇用制度、期間雇用、という呼び方をされる雇用形態は古くから存在し、東芝柳町工場事件(最一小昭和49年7月22日労判206号27頁)は著名な判例として認識されている。しかし、80年代以前の有期労働契約は正規雇用の期限の定めのない労働契約がほとんどの雇用形態の中での部分的・例外的な事例として争われてきたというべきである。しかし、上記1998年、2003年の労基法改正が有期労働契約を促進させ、更に1985年の派遣法が非正規雇用労働を促進させてきた。派遣労働という間接雇用と有期雇用というダブルの非正規雇用の労働契約が究極の非正規雇用労働の形態である。有期労働契約が期限の定めのない正規雇用の労働者にとって代わっているのである。
厚生労働省労働基準局長の委嘱を受けて2009年から12回にわたり検討してきた「有期労働契約研究会 中間取りまとめ(2010年3月17日)」によれば、「有期契約労働者は1985(昭和60)年の437万人から2009(平成21)年には751万人(雇用者総数の13・8%)に量的に増加し、また特にこの間の2000(平成12)年から3年ほどその増加のピッチが上昇した後、高止まりしている」(「労働力調査」)
「厚生労働省平成23年版労働経済の分析」によれば2011年1~3月までの「パート・派遣・契約社員」等の非正規雇用は1739万人であり、雇用者総数の35・5%に及ぶ。労基法が改正された1998年の翌年には1225万人(24・9%)だったものが514万人、10・6%増えているのである。派遣法の制定された1985年は同655万人、16・4%だったのであるから、そこを起点とすると1084万人、19・1%のパート・派遣・アルバイトの非正規雇用労働者が増大しているのである。特徴的な事は正規雇用に代わり、非正規の常用労働が増大しているということである。同書によれば2010年には非正規の常用労働者が32万人増加している。非正規雇用を非正規雇用ならしめている労働契約上の要因は短時間性、有期性、間接雇用性の一つ又は複合である。中でも有期雇用の合法化が非正規雇用労働を増大させてきた大きな要因である。
有期労働契約の最大の問題は、労基法の改正により上限を3年又は5年に定めたが下限の規定が無いことである。したがって下限は一日限りの日雇い、一週間、二ヶ月、三ヶ月、あるいは半年、一年と小間切れの有期雇用が成立しているのである。
有期雇用の労働者も憲法28条に定められた団結権・団体交渉権・団体行動権を有しているはずである。しかし、例えば申立人・郵政非正規ユニオン、被申立人・郵便事業株式会社の「都労委平成23年不第70号事件」の場合のように、3ヶ月雇用の非正規労働者が労働組合を結成しようとしたり、結成したとたんに雇い止め解雇になるのである。そこで不当労働行為を巡って争われることになるわけである。しかし、不当労働行為が成立するか否か以前の前提として、このようなことが日常茶飯事に起きるということが、有期雇用労働者の団結権はあらかじめ奪われていることになる。特に有期労働契約の非正規労働者は常にこういう形の雇い止めに恐怖しながら就労し、労働組合結成など思いもよらないことになる。有期労働契約の労働者が労働組合を組織、又は加入するということは常にこういう雇い止め解雇の恐怖と背中合わせなのである。したがって、労基法改正による有期労働契約の合法化そのものが団結権を否定する不当労働行為であると主張する所以である。経営の側は、労働組合の団結権を否定した不当労働行為ではなく、契約期間が満了したに過ぎない。解雇ではなく、契約期間の満了であり、労働組合の結成準備や結成とは関係が無いと主張する。しかし、労働組合の結成と雇い止めは不可分である。

2、「雇い止め」は労働組合つぶしの道具として使われてきた

雇い止めが不当労働行為と認定された事件はいくつかある。
「有期労働者に対する更新拒否は、仕事自体を奪うので実質は解雇と同様な機能を果たす。とりわけ何回かの更新がなされた場合にそのようにいえる。季節業務であるがゆえに退職→再雇用を繰り返すケースであっても『実際はその間継続的な関連があるのであって、再雇用の拒否というも実質は解雇的色彩をも含んでいる』(万座硫黄事件・東京地裁判昭28・12・28労民集4-6-549、もっとも不当労働行為は認められていない)と評価されている。そこで労働委員会命令は、拒否に相当な理由があるかを主に問題にしている。【58】亮正会高津中央病院事件・東京高判(平4・2・25労判625-67)は、1年任期のナースコンパニオンに対する更新拒否を、組合と協議するという協約に反し団交もせずに直ちに雇い止めをしたとして不当労働行為の成立を認めている。また、潮文社事件・東京地判(昭62・3・25労判498-68)およびめぐみ厚生センター事件・佐賀地判(昭62・7・31労判504-75)は、それぞれ期間更新を繰り返していた臨時職員に対する雇い止めを相当な理由が無く、組合を嫌悪していたためになされた不利益取り扱いと解している。」(『不当労働行為の成立要件 労働法判例総合解説39』(道幸哲也著 信山社 101~102頁)
亮正会高津事件は、パートタイマーの看護助手の労働条件を一方的に切り下げる新契約を更新時に示し、団体交渉に応ずることなく雇い止めにした例が不当労働行為と認定されたケースである。郵便事業会社においては全国的に行われているように、契約更新時に切り下げた労働条件を示し、その契約に応じなければ雇い止め。雇い止めにされたくなければ切り下げた労働条件を飲めという形の賃下げが行われてきた。年収300万位の賃金が時給を200~300円も切り下げられ、250万位になってしまうのだから、生活ができないという面と、嫌気がさして自ら辞めてしまうというケースが多い。有期労働契約・雇い止めが一方的な賃下げに使われているケースである。
JRのグリーンスタッフの雇い止めが来年大量に行われる可能性があるため、大問題になり、「契約社員の悲痛な現状」(東京新聞朝刊「発言」2011年10月19日付)と新聞に投書が載せられている。グリーンスタッフの場合は1年以内の有期労働契約であり、更新は4回を限度とすることが就業規則で定められていて、5回目の更新は無いのである。特徴として5年の間に3回正社員への登用試験がありそれに合格すれば正社員への道があるが、合格率は3割程度であり、合格しなければ雇い止めになる。JR東日本は国労東日本との団体交渉(2011年8月24日)で、5年の制限について「より良い優秀な人材を確保し、新陳代謝を図っていく。そこにグリーンスタッフの良さがある」と述べている。このJRのケースは1回の労働契約の上限を特別な場合は5年とするというのではなく、1年契約の更新の回数を4回までと定めて5年で雇い止めにするという点で新手の「有期労働契約」と言える。5年目で数百名の労働者を雇い止めにして他方で新たにグリーンスタッフを雇い入れているというのは、裁判の判例上、解雇権濫用法理の類推適用が一般化している現状を破壊するものだ。
本年8月10日に労働契約法が改正され来年4月1日から施行されるが、この改正は施行から5年の有期労働契約を経る前に申し込みをした人間に限り無期契約に転換するというもので、6ヶ月のクーリング期間を置けば5年間の雇用期間はリセットされて、また有期労働契約が可能となる改正であり、有期労働契約の労働者保護の立場からのものではない。すでに雇用の上限を5年以内に定めた就業規則を作成し、有期労働契約の労働者を必ず5年以内で首にする就業規則を定めた企業が出て来ている(例 コーヒーチェーン店シャノアール)。
いずれにしても有期雇用・有期労働契約が労働組合破壊、労働者の非正規化を促進する決定的役割を果たしている。有期労働契約は現代の「団結禁止法」と言えるほどの団結権を侵害する立法の中心軸にある。
労働組合つぶしに有期労働契約・雇い止めが使われた歴史的例として1980年に朝日新聞社が有楽町から築地に移転する際に、当時全臨時労働者組合という合同労組の朝日新聞社内にあった発送・編集・出版5分会の数百名の組合員が一旦解雇・2年又は1年の「短期限定雇用契約」を結ばされて全臨時労働者組合の朝日における分会は壊滅させられた事例がある。配転・希望退職等の合理化攻撃を経て最後の手段である「短期限定雇用制度」が労働組合をたたきつぶすために導入されたのである(『全臨労運動小私史』 小泉義秀著 16頁)。

3、雇い止めの相談件数は2年で5724件増

朝日新聞は2011年9月16日から毎週金曜日5回にわたり「有期雇用の行方」という特集記事を組んだ。「総合労働相談コーナー(労働問題に関するあらゆる相談にワンストップで対応するため各都道府県労働局、各労働基準監督署内等に設置されている)における、『雇止め』に係る平成21年度の相談件数は、13,610件となっており、平成19年度の7,886件から急増している(厚生労働省『平成21年度個別労働紛争解決制度施行状況』) 」(前掲 有期労働研究会報告)という状況の中での特集である。第1回はホンダの栃木営業所で働いていた期間雇用従業員の「契約70回でも雇い止め」という記事であった。1回の契約期間は1~3ヶ月。1年近くなると一旦退社扱いになり、1カ月もしないうちにまた再雇用され、退社と入社を10回繰り返し、契約更新は通算70回を超えるということである。もう一つはダイキン工業の期間従業員の話。これは偽装請負を告発されて請負会社の488人を直接雇用にしたもののその雇用形態は6ヶ月の期間従業員。2年半が上限と説明されている。第2回には郵政非正規ユニオンの齊藤委員長のケースが登場している。第5回に登場した安永貴夫・前情報労連書記長は「企業側は、有期労働契約の活用は業務量変動への対応のためとしているが、実際には人件費を抑える方便になっている」「期間の定めがない雇用が原則」と述べている。
「有期労働研究会報告 2010年9月10日」によれば「契約更新回数が11回以上とする事業所や勤続年数が10年超とする事業所も1割程度見られるなど、一時的・臨時的な仕事に限らず、恒常的に存在する業務についても有期労働契約が利用されている実態が見られる。このような労使のニーズ、利用実態がある中で、締結事由を規制することをどのように考えるか検討する必要がある。
有期労働契約の締結事由を規制する例として締結事由を一時的な事業活動の増加や季節的・一時的な業務、その他の法の列挙した事由に該当する場合に限定しているフランスでは、労働法典において労働契約は期間の定めなく締結される原則を定めた上で、有期労働契約を利用することは法律上認められる場合に限って許されている。
これに対して、我が国について見ると、まず、こうした無期労働契約の原則を採用しておらず、いかなる事由・目的のために有期労働契約を締結するかは当事者の自由に委ねており、それを前提に、労働慣行としても、有期労働契約が雇用の中心たる長期雇用を補完するものとして機能してきたところである。こうした中で、我が国においても無期労働契約の原則(無期原則)を採用するべきとの意見もある。」(同11頁)
無期労働契約の原則を確立することが急務である。

4、有期労働契約を定めた就業規則そのものが違法・不当

雇い止め解雇は就業規則に基づいて行われる。多くの場合、雇い止めが就業規則に違反している事は無い。問題はその就業規則そのものにある。昨年2月17日に出された郵便事業会社の雇い止めを巡る裁判で、広島高裁岡山支部第2部の判決では次のように記されている。「公社時代からの更新が重ねられた実情と雇用関係の引き継ぎがあり、控訴人ら期間雇用社員らにおいて、契約更新について合理的期待を有する事を考慮すれば、上記本文の規定をもって、更新の可否について被控訴人が自由裁量を有するなどと解釈するべきではなく、ただし書きの要件を満たさない限り、雇い止めをしても無効であって、雇用契約は更新されるものと解すべきである。本件においては、上記ただし書きの要件を満たすかどうかが問題となる」「就業規則10条1項には『会社が必要とし、本人が希望する場合は、雇用契約を更新することがある。ただし雇用契約期間が満了した際に、業務の性質、業務量の変動、経営上の事由等並びに勤務成績、勤務態度、業務遂行能力、健康状態等を勘案して検討し、更新が不適当と認めた時には、雇用契約を更新しない』と定められており、本件雇い止めに関しても、上記ただし書きの要件を満たすことが必要であると解すべきところ、…被控訴人が本件雇用契約の更新をしない場合には該当しないというべきである」(22頁)
広島高裁判決は就業規則で更新しない理由の但し書きが定められていても、その但し書きに当てはまらない場合は「自由裁量を有する」わけではなく、雇い止めは不当とした。本年9月14日最高裁は被告会社の上告不受理を決定し、
この事件の雇い止め不当の判決が確定した。

5、国家戦略として非正規雇用を推進しようとする野田政権

本年7月6日に発表された野田首相を議長とする国家戦略会議のフロンティア分科会報告では有期労働契約を軸とする非正規雇用を国家戦略にすると述べている。
「環境変化に強い人材を育成していくために、どの世代も学び直しができ、柔軟な働き方ができる社会を国家戦略として実現させていく必要がある。そのために、ショック緩和策支出の教育投資への転換、教育・介護分野等への参入の円滑化、民間仲介サービス活用の促進、女性の活躍のための制度の見直し、75歳まで働ける環境をつくっていくための柔軟な雇用・解雇ルールの確立、外国人学生受け入れ、『即戦力』『創造性』を重視する受験制度、大学間の役割分担と競争などが求められる。」
「企業内人材の新陳代謝を促す柔軟な雇用ルールを整備するとともに、教育・再教育の場を充実させ、勤労者だれでもいつでも学び直しができ、人生のさまざまなライフステージや環境に応じて、ふさわしい働き場所が得られるようにする。具体的には、定年制を廃し、有期の雇用契約を通じた労働移転の円滑化をはかるとともに、企業には、社員の再教育機会の保障義務を課すといった方法が考えられる。場合によっては、40歳定年制や50歳定年制を採用する企業があらわれてもいいのではないか。もちろん、それは、何歳でもその適性に応じて雇用が確保され、健康状態に応じて、70歳を超えても活躍の場が与えられるというのが前提である。こうした雇用の流動化は能力活用の生産性を高め企業の競争力を上げると同時に、高齢者を含めて個々人に働き甲斐を提供することになる。」(17頁)
ここで述べられている柔軟な働き方とか、学び直しができる社会というのは40歳で定年させ、あとは有期労働契約の非正規雇用で働かせるあり方を国家戦略として進めるということである。
定年制廃止と言いながら何故40歳定年制なのかと言えば、正規雇用の定年制を40歳にして、その後は全部非正規=有期雇用にするということだ。「正規・非正規の就労形態の差を解消」というのはほとんどの労働者を非正規にするということなので正規・非正規の格差はなくなるということ。75歳まで働けるようにするというのは年金支給を減らし、75歳まで働かないと生きていけないようにするということ。定年制廃止とは非正規・有期雇用=低賃金で年をとってもこき使うということに他ならない。
「国家百年の大計」と述べているようにこの報告は1995年の日経連のプロジェクト報告を更に上回る非正規雇用を全面化させる新自由主義の極地である。少子高齢化は非正規雇用により青年が結婚して子供を作り育てることができないような労働条件の下にあることが招いているにも関わらず、「人口急減に歯止めをかける」などと言っている。しかし非正規雇用が拡大すれば人口減は不可避だ。

6、有期労働契約は労働者の病気を拡大し、命を奪う

厚生労働省の『有期労働契約に関する実態調査』によると、年収200万円以下の割合は09年が57・3%だったのに比べ、11年は74・0%にまで広がっている。300万円以下で見ると、有期雇用の88・4%である。
「非正規雇用の問題を考えると、人々の中に複数の身分を持ち込むことにより発生する差別を利用して支配する、前近代的な管理の方法が厳然として残っている事を感じさせられる。われわれはそろそろこれらの問題について、『格差』という第三者的表現ではなく、『差別』の問題としてとらえていく必要があるのではないか。」(『非正規雇用と労働者の健康』(矢野栄二 井上まり子編著 財団法人労働科学研究所 2011年5月25日初版 325頁)
前近代的という表現が正しいのか否かはともかく、これが新自由主義の極地とも言うべき実態だ。
他、有期労働契約や派遣労働という雇用形態によって年次有給休暇が取りにくい、あるいは取らない、病気になっても休まないで我慢をして働いてしまうということもある。そういう権利を行使すると雇い止めになってしまうのではないかという恐怖からそうせざるを得ないのだ。
「安全衛生に関する者も含め労働者の諸権利を要求しにくい立場にある。例えば契約が切れて更新するにあたり、当然ある年休も全部取得するより、あまり休まない方がいいのではないかという思慮から、病気になりかけても受診のために休みを取ることも躊躇し、病休の取得が減っているということがある。すなわち失業か病気かの二者択一が常時迫られているのが非正規雇用労働者である。」(同329頁)
「精神的な健康に関しては20近くの論文によるメタアナリシスで雇用形態がどの程度メンタルヘルスに影響するかを示した研究がある。これによると、統合統計値としては非正規雇用のメンタル不調のオッズ比が1.25、すなわち非正規雇用では約25%メンタルヘルスの訴えが多いという結果であった。」(同)ということである。「非正規雇用は雇用や社会の問題だけでなく、労働者の命と健康の問題であると考えられる。」(同312頁)雇用形態が非正規であるということ自身が持つ要素が健康障害に繋がっているということである。
「精神障害の国際分類法であるDSM-IVで標準的に測定した疲労、抑うつ、興味喪失に関連して有期雇用職員の訴えが多くなっていたこと、有期雇用の増加は密接に関係している。」(同322頁)
有期労働契約は3ヶ月、6ヶ月、1年、2年、3年等と首になる日が決まっている雇用形態だ。解雇は「馘首」・「首切り」という言葉で表現される。言わば雇い止めという雇用形態は死刑執行の日が決まっている死刑囚のようなものだ。契約が更新されることは死刑執行が猶予されたにすぎず、死刑執行に怯えながら働く雇用形態が有期労働契約である。したがって雇い止めの恐怖から労働組合に結集したり、労働組合を結成することを躊躇せざるをえない。労働組合に加入したり、結成したりする場合は雇い止めを覚悟して立ち上がるしかない過酷な状況に置かれているのが有期雇用をはじめとする非正規雇用労働者なのである。したがって有期労働契約はあらゆる意味で現代の団結禁止法であり、憲法28条違反であり、有期労働契約そのものが不当労働行為である。
以上