書評「『非正規公務員』(上林陽治著/日本評論社)」

『非正規公務員』を学ぶ

合同・一般労働組合全国協議会事務局長 小泉義秀

四つの偽装

『非正規公務員』(2012年9月5日第1版第1刷 上林陽治(かんばやしようじ)日本評論社)は『なくそう! 官製ワーキングプア』(官製ワーキングプア研究会/編 日本評論社)に続く公務員労働者の非正規問題を取り上げた労作である。著者は國學院大学博士課程を修了し、自治労本部職員を経て現在自治労総合研究所の研究員である。
著者の問題意識は「はじめに」の部分で述べられており、「公務職場に勤務する非正規公務員が抱えている問題群を、筆者はそこに『四つの偽装』があると整理して論じ」著作の全体像を「はじめに」で網羅している。
「第一は、偽装『非常勤』である。北陸のある市の公民館に一般職非常勤として任用されている彼女の週勤務時間は、常勤職員より一日三分、週で一五分短いだけである。はたして彼女を非常勤職員と呼んでよいのか。本当は『常勤』の職員で、『非常勤』とするのは偽装でないのか。
第二は、偽装『非正規』である。四国のある市の保育園に勤務する保育士の彼女は、二〇年以上継続して同市に任用され、正規保育士と同様にクラス担任まで務めてきた。東京のある区の地域図書館に勤務する男性の非常勤職員は、主任非常勤という役割を与えられ、地域館の管理責任も担う。東京のある福祉事務所では、生活保護世帯の急増に正規職員のケースワーカーだけでは対処できず、多くの非正規公務員をケースワーカーとして任用し、高齢者の生活保護世帯を中心に保護行政に当たらせている。このような正規職員と同様の職務に就き責任を有する彼女・彼らを『非正規』職員と呼ぶのは偽装ではないのか。本当は『正規』職員ではないのか。
第三は偽装『有期』である。一時的でも臨時的でもない恒常的で本格的な業務には、本来であれば常勤で任期の定めのない正規職員を就けるべきことを公務員法は予定している。その恒常的で本格的な業務に有期の非正規公務員を就け、長年にわたり期間を更新し、突如として任用の更新を拒否することは、いざとなったら『解雇』しやすくするために、名目上、期間をつけたにすぎず、それは偽装『有期』である。
そして第三の偽装は、第四の偽装へと発展する。偽装『雇止め』である。
民間の労働契約関係であれば、長年にわたり契約期間を更新し続けた後の雇い止めは解雇とみなされ、それが不当であれば解雇に準ずる雇い止めそのものが無効となる。しかしこのような法的保護は公務の有期任用職員である非正規公務員には適用されない。民間ならば解雇とみなされる雇い止めが、公務世界では漫然と行われ、法的な保護もない。つまり『雇止め』を装った解雇権の濫用なのである。」(1~2頁)

非正規公務員問題は合同・一般労組の正面課題

私の問題意識として「官製ワーキングプア」に関する著作を何冊か読んだこともあるし、教育労働者の非正規化の問題についてもある程度の知識はあると思っていた。しかし、公務員の非正規労働者の場合、任用であるため、雇い止めに関しては解雇権濫用法理の適用を受けないこと、さらに公務員の非正規雇用の場合は労働組合法、労働基準法、労働関係調整法といういわゆる労働三法が適用されないため、合同・一般労組で組織化して闘うには法的カベがあり、非常に困難であると漠然と考えてきた。これまで非正規公務員と関わりを持たなかったわけではないが、その組織化に踏み出すとか、的確な方針を出すことができないできた。本書を読んで非正規公務員の実態、法的諸問題を学び、非正規公務員問題は合同・一般労組の正面課題であることを強く認識した。地公法3条3項3号に基づく特別職非常勤職員の場合は労働3法が適用される非正規公務員なのである(65頁)。
非正規公務員が労働三法の適用を受けないという間違った思い込みから非正規公務員の問題と、労働基準法や労働契約法の改正問題を別々の事柄と考えてきたが、そのことが誤りであることを本書を読んで痛感した。非正規公務員の有期雇用、不当な雇い止めと労働契約法、労働基準法の改悪と相互不可分に結びついている。民間の非正規労働者の闘いと、非正規公務員の両者の闘いを理解しなくては、非正規公務員の闘いも、民間の非正規雇用の問題についても的確に闘うことはできないのである。
「これまでの裁判例の系譜、法制度並びに法整備の状況、自治体における実践例を踏まえると、実は、非正規公務員の処遇の改善や雇用の安定のために、できることはかなり多い。…公務員法の趣旨を潜脱してきた責任を非正規公務員に押しつけて、雇止めをしたり、手当支給を廃止することでその場をやり過ごすのではなく、多くの自治体で、非正規公務員の雇用や処遇の安定を通じて公共サービスを充実させること、そのためにこそ『今でもできる事柄』を実践していただくことを望みたい。」(296~297頁)という終章の結語が本書の帯に引用されていることから、著者が「非正規公務員の雇用や処遇の安定を通じて公共サービスを充実させること」に主眼を置いているかのような先入観を持って私は読んでしまったのであるが、決してそうではない。著者が一番言いたい点は以下の部分である。
地公法27条2項にあるように「職員は、この法律で定める事由による場合でなければ、その意に反して、降任され、若しくは免職されず」ということである。この原則に立てば「公務員の任用の原則は、任期を付さず、無期限であることが前提なのである。そして任期付の任用には特段の理由が必要で、それは①公務員法が任期の定めのない任用を原則としていることの趣旨に反しないことを基本として、②業務繁閑などの対処のため、一時的・臨時的に期限任用を行う(非恒常性)、又は、③特別の習熟、知識、技術又は経験を必要としない補助的業務(非本格性)に限って、任期付任用が許されるのである。②は量を指し、③は業務の質を指すものといえよう。そうすると正規公務員より非正規公務員の方が多いという自治体さえあるという今日の事態は、公務員法の趣旨を潜脱する違法な任用だというべきなのである。…雇止めという選択は本当はありえない。」(293頁)
現行の公務員法に照らしていれば、雇止めは違法であり、非正規公務員を正規職員として任用すべきというのが著者の主張の眼目である。

民間の有期労働契約―雇い止めの問題と不可分に関係

第1の偽装である非常勤と常勤の区分についての事例として、2010年9月17日、「枚方市非常勤職員退職金・期末手当支給損害賠償請求住民訴訟事件」での大阪高裁の判決を例に取り上げている。「常勤の職員」「非常勤の職員」の区分はそれぞれの職員がどのような呼称によって任用を受けたかという形式的な理由によって区別されるものでなく、地方公務員としての勤務に要する時間が普通の労働者の労働時間と同程度の勤務時間であり、かつ、その者の生活における収入の相当程を地方公務員としての勤務に依存する職員を「常勤職員」と規定し、枚方市非常勤職員の勤務時間は、常勤の職員の週勤務時間に相当する時間以上を勤務しているから、「常勤の職員」だとした。「非常勤」と区分されているから非常勤というわけでなく、概ね常勤職員の4分の3以上の労働時間であれば常勤職員とみなすということである。
第2の偽装「非正規」については、2008年7月30日の「東村山市非常勤職員支給損害賠償請求住民訴訟事件」において、東京高裁が職務内容から「常勤職員に該当することが認められる」との判断を示した事例を取り上げている。東村山市事件の嘱託職員の中には、週勤務時間が22・5時間の者も含まれていた。この事件は先の例と異なり、労働時間の長さではなく、勤務内容から「常勤」と同じと判断したのである。
「第3章Ⅲ任用更新回数制限の不当性」の章は、民間の有期労働契約、雇い止めの問題と不可分に関係している重大な事例を取り上げている。東京都では、1993年から従前の非常勤職員制度を改正し、14年にわたりその制度の下で専門的非常勤職員を任用してきた。ところが、「2007年12月6日、東京都専務的非常勤職員設置要綱が突然改定され、65歳定年制が廃止されるとともに、雇用期間の定めについて『雇用期間を4回までに限り、更新することができる』という一文を挿入したのである。同改定では『雇用期間を4回更新した専務的非常勤職員について、職務の性質上特別の理由があると知事が認めた場合』は公募をし、選考の上、知事が新たに任命するという趣旨の一文も挿入した。また同要綱の附則で『現に専務的非常勤職員である者は(中略)平成20年(1998年―引用者)3月31日以前の雇用期間は、更新回数に含まない』としたのである。つまり雇用年限は2013年3月31日までということなのである。」(67頁)
この件で当該は数名の相談員と共に労働組合を結成し、都側の団交拒否について労働委員会で争い都労委でも中労委でも組合側が勝利する。しかし2010年12月に、東京都は中労委命令の取り消し訴訟を提訴して現在に至る。
この『雇用期間を4回までに限り、更新することができる』という手口はJRのグリーンスタッフで行われていることであり、今後このような有期労働契約が拡大していくことは明白だ。先の8月10日に成立し、来年4月1日から施行になる労働契約法の「5年雇用されて本人が申し込めば無期雇用」がそれを促進することになる。民間企業の有期労働契約・雇い止めと非正規公務員問題は相互不可分に関係しているのである。
『序局』(第3号 2012.11)で山本志都弁護士が「『非正規公務員』の雇い止めに抗して 武蔵野市嘱託職員の闘い」と題して3頁にわたって書かれているが、この事件についても本書では重要な裁判例として登場する(140頁)。この裁判の画期性は「武蔵野市に再任用義務づけを求める」(『序局』3号 258頁)訴えを追加し、これまでにない訴訟形式をとったことである。判決は原告の継続雇用に対する期待権を被告が侵害したとして損害賠償を認め、非正規職員の雇用制度の問題点にも踏み込んで言及している。しかし、解雇権の類推適用を認めず、再任用の義務づけを認めなかった。
中野区事件(東京高判 平一九・一一・二八)では「私法上の雇用契約の場合と、公法上の任用関係である場合とで、その実質面においては、多数回の更新の事実や、雇用継続の期待という点で差異がないにもかかわらず、労働者の側にとってその法的な扱いについて差が生じ、公法上の任用関係である場合の労働者が私法上の雇用契約に比して不利となることは確かに不合理である」から「反復継続して任命されてきた非常勤職員に関する公法上の任用関係においても、実質面に即応した法の整備が必要」(285~286頁)と指摘していた。
裁判所の判断は、これまでは任期付の任用も任命権者の任命という行政行為であるとし、任命行為があってはじめて勤務関係が成立するから、私法上労働関係のように、当事者の合理的な意思解釈ないしは黙示の合意によって、繰り返し任用が「任期の定めのない任用」には転嫁せず、私法上の解雇権濫用法理を類推適用する余地はないとしてきた。しかし非正規公務員労働者の闘いによってその壁が崩されつつあるのである。

非正規公務員の組織化と闘いの実践書

2012年8月10日に成立した労働契約法の改正について「たしかに切り替え期限の5年を前に雇い止めすることが続発するのではないかとの懸念があるものの、少なくとも『出口』ベースで、判例法理として確立している解雇権濫用法理の類推適用を法定化しようという点で意義ある改正だといえよう。」(286頁)という評価については同意できない。すでに5年を前に契約更新の回数を制限する就業規則を作成する企業が出て来ている現実に踏まえるならば、筆者の懸念は想定している以上に進行する。
「同一価値労働同一賃金」原則を適用して「内容」規制を行うという点(287頁)につても同意できない。「同一価値労働同一賃金」論は結論だけ言えば能力主義に道を開く差別と格差を容認することになる原則であるからだ。
以上のように幾つか同意できない点があるが、本書は非正規公務員・官製ワーキングプア問題の決定版と言えよう。特に複雑な法律の諸問題をわかり易く解き明かしてくれている実践にすぐ使える書である。読み込んで主体化したい。