書評「国・地方自治体の非正規職員」

「国・地方自治体の非正規職員」(旬報社)書評

2012/12/24 小泉義秀

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臨時・非常勤職員問題の歴史的変遷を対象化し、学ぶ意味

本書は12月10日に「旬報社」から刊行された。著者、早坂征一郎は法政大学名誉教授・大原社研名誉研究員、松尾孝一は青山学院大学経済学部教授である。
著者の問題意識は「はしがき」に以下のように書かれている。「第一に,国・地方自治体の非正規職員とは,法制度的にはどのような存在であり,どのような種類に分かれるか。 第二に,そもそも何故。常勤以外の国・地方公務員が大量に存在するようになったか,その歴史的由来と現状に至る経緯はどうか。
第三に,では,今日,国・地方自治体で,一体どのくらいの人数の非正規職員が存在しているか。
第四に、その仕事の内容および雇用条件,賃金・労働諸条件など処遇の実態はどうか。第五に,非正規職員の雇用条件や処遇の改善に取り組んでいる公務員関係組合における非正規職員の組織化の現状はどうか。
最後に、国・地方自治体における非正規職員をめぐる諸問題の抜本的解決のために,どのような観点と政策が必要であり,それに沿ってどのような政策提言が可能であるか。」(3~4頁)
『非正規公務員』(上林陽治著 日本評論社 2012年9月5日初版)が地方公務員を対象にし、非正規公務員の雇い止めをめぐる裁判の判例、法的諸問題を軸に書かれていたのに対し、本書は国家公務員と地方公務員の両方を取り上げ、戦後日本における公務員の定員政策と臨時・非常勤職員問題の歴史的変遷、地方自治体における臨時・非常勤職員の種類・数と職務内容、賃金労働条件などについて、学者の立場からその全体像に迫ろうとする著作である。
国家戦略会議-フロンティア分科会報告が40歳定年制を打ち出し、労働者を100%有期雇用の非正規にするということを国家戦略とする方針を掲げた。その貫徹は公務員労働運動を解体し、360万公務員全員を非正規雇用化していくことぬきに貫徹できない。二つの著作を読んで強く感じたことは民間の有期労働契約と公務員の有期労働契約問題は不可分一体であり、相互に浸透・連関しているということだ。有期労働契約、派遣法、労働契約法などの問題を考える時に、民間の裁判の判例や労働委員会の命令だけではなく、国と地方自治体の公務員の非正規問題について踏み込まないと、日本の労働者全体の非正規職問題に迫ることはできない。
臨時・非常勤職員の処遇の雇い止めに関してのかつての判例の傾向は,公務員の任用は私法上の雇用契約ではなく公法上の行政行為であるから,民間における雇い止めに関する解雇権濫用法理は類推適用されないとして,雇い止め解雇が容認されてきた。しかしこの間、解雇権濫用法理は類推適用できないものの,任用継続の「期待権」を賠償の対象にし,その侵害について慰謝料支払いを命じる判決も現れている。この件については前掲『非正規公務員』が詳しい。非正規公務員の雇い止め攻撃とそれに抗した闘いはあまりにも理不尽な雇い止め攻撃に対する反撃の闘いであり、これまでの判例をひっくり返すほどの内容を持っている。われわれがその点に無関心であったり、冷ややかであってはならない。何故これまでの判例を覆す判決が出ているのか? 雇い止め当該が反撃の闘いに立ちあがっているからである。他方、東京都をはじめとして雇い止めや非正規化のあり方がこれまでと次元を画するほどデタラメであるからだ。
一例を挙げよう。東京都の専務的非常勤職員制度ができてから20年が経過した「2007年12月6日、東京都専務的非常勤職員設置要綱が突然改定され、65歳定年制が廃止されるとともに、雇用期間の定めについて『雇用期間を4回までに限り、更新することができる』という一文を挿入したのである。同改定では『雇用期間を4回更新した専務的非常勤職員について、職務の性質上特別の理由があると知事が認めた場合』は公募をし、選考の上、知事が新たに任命するという趣旨の一文も挿入した。また同要綱の附則で『現に専務的非常勤職員である者は(中略)平成20年(1998年―引用者)3月31日以前の雇用期間は、更新回数に含まない』としたのである。つまり雇用年限は2013年3月31日までということなのである。(前掲『非正規公務員』67頁)これはJR東のグリーンスタッフ型の更新4回、5年後には必ず雇い止めと同質の制度である。JRという民間会社の新手の雇い止め制度を東京都が取り入れたということだ。東京都は今、この4回更新制を学校事務職員等の非正規に拡大しようとしている。新自由主義の下で公務員を非正規化する攻撃が開始されているということであり、この理不尽きわまる攻撃に抗して端緒的闘いが始まっているということである。その意味で国と地方自治体の公務員の非正規化の歴史的変遷を学び闘いに転化するために本書を学ぶ価値はある。

今日に至る非常勤職員制度導入の起点

今日の公務員攻撃、公務員労働運動解体攻撃に基づく、非正規化攻撃は定員法以来の「非常勤職員制度」とは次元を画するものである。
「要約すれば,中央省庁再編と国家公務員定員の削減は,①それまでの総定員法の下での定員削減計画とは背景にある政策理念が異なること,②その新たな政策理念を体現する小泉首相の下で,ドラスティックな定員削減が行われた。①それは同時に,市場化テストをはじめとする行政改革全般の政策の一環でもあった。しかも国だけでなく地方自治体をも包摂する政策の一環でもあった。」(34~36頁)とあるように新自由主義の攻撃・政策はそれ以前のものの延長線上にはない。しかし、閣議決定や法律はそのまま残って継続してきたため、「非正規化」の根拠はそれらの法律等に依拠している。その意味で連続するものと、次元を画するものとがどのような関係にあるかを捉える必要がある。本書はこの公務員の非正規化の起源、歴史的経緯を明らかにすることを主眼に置いているので、その点の記述は詳細であり、わかりやすい。著者が転換点としてとらえているのは1949年5月31日施行の人事院規則だ。この部分の著者の記述の要は以下の点である。
1949 年5月31日の人事院規則―臨時職員の廃止が制定・施行されることにより、臨時職員制度は廃止された。代わって同日、国家公務員法附則第13条に基づく特例である人事院規則-(非常勤職員の任用) が施行され、ここに今日にまで至る非常勤職員制度が導入された。これが第一の起点である。
臨時職員のうち,常勤の臨時職員については,同年6月1日から施行された定員法により,定員内職員に組み入れられた。常勤職員以外の者については,定員外職員として非常勤職員とされた。この時、勤務時間については,常勤職員の一週間の勤務時間の4分の3を超えない範囲で任命権者が自由に定めることと規定した。非常勤職員制度は,当初はあくまで短時間勤務の非常勤職員制度として発足したのである。
他方,定員法による大量人員整理が同年6月1日以降, 10月末を目途に断行された。この定員法による常勤職員の大量人員整理と厳しい定員抑制を補完するものとして非常勤職員が導入された。
ここには二つの抜け道がある。一つは非常勤職員の一部が,常勤職員の勤務形態をとり始め,「常勤的非常勤職員」という,その言葉自体が矛盾するような公務員が生じたことである。
二つ目は定員法が「二ヶ月以内の期間を定めて雇用される者」を定員の外においているのを利用して,この二箇月の雇用期問を無制限に更新することによって,「常勤労務者」という特殊な公務員を生み出したということである。
第二の起点は 1961年2月26日,閣議決定「定員外職員の常勤化の防止について」である。
この閣議決定のポイントは①日日雇用職員の任期は一会計年度を超えてはならず,しかし同一人物の継続雇用をしてはならないということであった。するとやっと業務に精通しはじめた非常勤職員を一年以内に雇い止めしなければならなくなり、同一人材の継続的確保もできない。そのための便法として「任用中断期間の設定」という「慣行」が,国,地方自治体を問わず,恒常化したのである。任用中断日は「1年に1日から11日程度あるいはもっと長いといったぐあいに、実施は大変異なっていた。」(65~68頁)ということである。
鈴木コンクリート工業では3ヶ月雇用し、1日解雇し、また3ヶ月雇用して1日首を切るという雇用形態で20年も働かせてきた。1日の空白期間は「契約休み」という呼ばれ方をしてきた。東京西部ユニオン鈴木コンクリート工業分会が結成され、この「契約休み」を廃止するまでこの雇用形態はずっと継続されてきたのである。この空白期間は有給休暇を取らせないための手段に利用され、3ヶ月雇用を厳格に意識化させ、労働組合を作らせない、労働者を団結させないための支配の道具として使われてきたのである。「任用中断期間の設定」はこの鈴コンのやり方と良く似ているばかりか、それ以上に卑劣である。これを国家的脱法・違法行為で行ってきたのである。8月10日に成立し、来年4月から施行される改正労働契約法の6ヶ月のクーリング期間も同様の性質のものである。政府や自治体がこういう違法行為・脱法行為を行い、法律レベルでそういうことを行おうというのは許されない。

非正規化を許さない闘いを基軸に、非正規を正規に! 雇い止め解雇を許すな!

国と地方自治体の正規の公務員数、非正規の公務員数については以下のように記されている。
「国における非正規採用職員=一般職の非常勤職員の人数については,図0-1の注6に,総務省調べで約14万2千人と注記されている。すなわち,非現業一般職の正規採用の国家公務員約27.2万人に対し, 5割強に当たる非正規職員が存在していることになる。地方公務員については,のちに詳しく検討するとして,ここで先回りして言えば,自治労調査で約60万人(総務省調べで約50万人)の非正規採用の地方公務員が存在すると推測されている。正規採用の地方公務員約280万人に対し,ほぼ2割前後に相当する比率である。」(13頁)
11月16日の東京新聞の報道によれば最新の自治労の調査によれば非正規職員は70万人と推計されるとのことである。労働条件について、「退職手当については,非正規の国家公務員は,一定の勤務条件をクリアしていれば支給されるが,非正規の地方公務員の場合は,ほとんど支給されない場合が多い。社会保険については,非正規の国家公務員の場合,一定の勤務条件を満たせば加入が認められるが,非正規の地方公務員の場合は,かなりばらつきがある。」(19頁)
義務については正規であろうが、非正規であろうが同じである。「すべて公務員は法令および上司の命令に従う義務や守秘義務および職務専念義務など等しく負い,信用失墜行為の禁止や政治的行為の制限なども等しく課されている。争議行為等の禁止も同様である。また,そうした服務上の義務などに違反した場合の懲戒などの処分も同じく課される。」(17頁)
しかし、特別職の地方公務員は,地方公務員法の適用から除外され,労働基準法,労働組合法の適用下にあるため,争議行為等は禁止されない。ここの分断が労働者を団結させない要因の一つでもある。
非正規の公務員の賃金は平均で15~6万円。時給800円、日給6700円というのもある。圧倒的部分が年収200万円未満という低さである。しかし正確な賃金実態はつかめないという。一つは国の場合統計をとっていないという問題と、非常勤職員の賃金は「庁費」という物件費に計上されているためつかめないのである。
任用期間は原則1年未満で、それが更新される状態できている。外注化が徹底的に進んでいて、2010年の市区町村における民間委託の実態をみると本庁舎の清掃は88%が民間委託。本庁舎の夜間警備は79%。し尿収集は95%。一般ゴミ収集は92%。道路維持補修・清掃等は82%。在宅配食サービスは100%である。
著作の結論は自治労による非正規職労働者の組織化と処遇改善である。自治労の正規職の組織率は71・9%。非正規の組織率は5%程度。この5%の組織率が70%に増えれば問題が解決するわけではない。71・9%がこれ以上の外注化・非正規化を許さない闘いを基軸に据えて、5割、2割の非正規を正規雇用にしていく闘いをしなければ非正規職撤廃闘争にはならない。現在進められているのは71・9%の正規を5%の非正規の組織率にしていく攻撃である。その意味で動労千葉の10・1外注化阻止の闘い、外注化を認めない闘いが非正規職撤廃闘争の基軸であり、1047名の解雇撤回を巡る攻防、国鉄闘争全国運動の闘いが労働運動を甦らせる闘いの要である。したがってJRにおける外注化・非正規化阻止の闘いと国鉄1047名の闘いを全ての産別の労働者の正面課題に据えながら、それぞれの職場・産別で外注化・非正規化を許さない闘いを展開しつつ、非正規の仲間を合同・一般労組に組織化して闘うことが求められている。

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早川 征一郎 著

発行年月:2012年12月
発売元:旬報社
ISBN:9784845112920

本体価格:2000円  販売価格:2100円 (税込)