2018年度版「経営労働政策委員会報告」を弾劾する

2018年度版「経営労働政策委員会報告」を弾劾する

合同・一般労働組合全国協議会事務局長 小泉義秀 2018/01/18

はじめに

 1月16日に2018年度版「経営労働政策委員会報告」が発行された。表紙のスローガンは「働きがいと生産性向上、イノベーションを生み出す働き方改革」である。
「序文」の冒頭で会長の榊原定征が以下のように書いている。「日本経済は緩やかながら着実な景気回復軌道を辿っている。2012年12月の安倍政権の誕生とともに始まった景気拡大は、すでに戦後2番目の長さであった『いざなぎ景気』を上回り、日本経済は新しい成長ステージに入りつつある。消費者物価もプラス基調が続くなど、デフレ脱却まであと一息のところに来ている。」
 しかし本当に「景気回復・景気拡大」と言えるのか? 日本の国債残高は100兆円を超す。日本の国債残高と財政赤字は国際的にも最悪である。公債残高のGDP比率はドイツ65・9%、フランス98・8%などユーロ諸国は100%以下に抑えられているが、日本は250%である。米国でも107・5%である。プライマリー収支(利払いを除く財政収支)はドイツ1・1%、フランス-1・6%、米国-1・8%であるが、日本は-4・8%だ。財政支出は2009年から100兆円を超える。しかし税収は40~50兆円である(『日本国債の膨張と崩壊 日本の財政金融政策』 代田純著 文真堂 2017年2月刊参照)。家計に例えると年収500万円にもかかわらず毎年1000万円の支出だ。しかも5000億の借金を抱えている。絶対に返済できない絶望的な状態である。利子が1%台の低利だから何とかなっているが、金利が高くなれば財政破綻は一気に表面化する。この数値はギリシャやイタリアよりも悲惨だ。安倍は軍事費を増大させることを通してより財政赤字を増やしている。したがって「増税分の半分が『人づくり革命』に充当されるため、2020年度のプライマリーバランスの目標達成は遅れることになる。」というのは真っ赤な嘘なのである。

働き方改革=労働生産性の向上=能力主義の評価制度

「働き方改革」とはどういうことなのか? 「労働生産性の向上」「多様な人材が様々な就労スタイルや雇用形態の下」で働くことであるという文言が続くことで鮮明になる。労働生産性の向上は技術革新でもなく、乾いた雑巾をさらにしぼるような方法しか残されていないことを意味する。IoTやAI、ロボットの活用も言われているが、「様々な働き方を選択できる職場環境の整備」ということが主になっている。非正規雇用、あるいは雇用ではない、個人事業主のような形態で働かせることがメインだ。
「労働力人口の急激な減少が進行する中、人手不足が深刻化」しているために更なる生産性向上が必要だというのであるが、労働者を非正規にして、分断し、低賃金で働かせることしか政策がない。青年が結婚もできない、子供も産めない中で労働力人口は減るばかりであり、何の対策も打ちようがない。にもかかわらず「高齢層のみならず、若年層を含め、能力や成果を適正に評価・反映する処遇制度へ見直すことは、生涯所得増大への展望を拓き、将来の安心感を高めるだけでなく、社会保障費の抑制や個人消費の拡大にもつながる。」というのである。高齢者を70歳まで働かせて、年金受給を遅らせることに主眼がある。人手不足だから高齢者と女性を働かせようというのだが、高齢者や女性も能力主義、評価制度で死ぬまで働かせようというのだ。

凄まじい青年労働者の離職率

 「厚生労働省『新規学卒者の離職状況』によると、2014年3月卒業者の入社3年以内離職率は高卒で40. 8%、大卒は32. 2%となつた。高卒・大卒とも離職率の高止まりが続いており、大卒については2013年卒に比べて0. 3%ポイント上昇した。」(同28頁)
青年の離職理由は、「労働時間・休日・休暇の条件が良くなかった」(30. O%)が最も多く、「肉体的・精神的健康を損ねた」(28. 3%)という理由が続く。「ミスマッチによる早期離職」と書かれているがミスマッチではない。働きすぎ、休みがないという劣悪な労働条件の中でやめざるをえない現実があるのだ。高卒の離職率が50%近いというのは凄まじい。2017年の新入社員の意識調査でも「残業がない・休日が増える」(第3位)というのが会社に求める希望のランクに入っている。この意見が増えているのが最近のアンケートの特徴だという。

外国人労働者の受け入れへ

 厚生労働省職業安定局の資料によれば①就労目的で在留が認められる者(いわゆる専門的・技術的分野)の外国人は約20・1万人。②定住者、永住者などの身分に基づき在留する人が約41・3万人。③技能実習が約21・1万人。④特定活動(経済連携協定に基づく外国人看護士、介護福祉士等)が約1・9万人。⑤資格外活動(留学生のアルバイト)などが約24万人。
「日本で就労する外国人は約108万人で、このうち専門的・技術的分野の高度人材が約20万人を占める(2016年10月現在)。」
 昨年12月30日の東京新聞朝刊1面報道によれば国家戦略特区を使って農業労働者の就労を解禁する動きがある。それも派遣会社が外国人を雇用して農家に派遣するという。派遣会社パソナの会長の竹中平蔵のテコ入れで一気に進行した。「規制緩和でビジネスチャンスを得る人物が公然と諮問会議に参加しており、利益相反だ」(前掲東京新聞)と非難の声が上がっているのは当然だ。安倍のやり方は全部これである。森友、加計学園事件、リニア新幹線、スパコンの斎藤元春等々。国家戦略特区がその温床となっている。
 技能実習生制度は、国連では「奴隷労働」「強制労働」の疑いがあるといわれている制度である。だから逃げ出す人も多い。では派遣労働ならそれがないというのか? そんなことはない。単純労働力の受け入れは行わないというたてまえの元で研修生・技能実習生制度という隠れ蓑を使って外国人労働者を搾取してきたそのベールをかなぐり捨てて、露骨な搾取・収奪を行おうというのだ。1月15日の毎日新聞によれば14~16年の外国人技能実習生の労災死は22人であり、休業4日以上の労災件数は3年平均で年475件である。この中には過労死も一人含まれる。これは日本の労働者全体の労災比率を大幅に上回っている。外国人実習生が日本の労働者よりも危険な労働を強いられているということであり、言葉の壁が危険を増幅させている。これらの問題を解決しないで農業労働者を派遣で雇用するというのはとんでもないことである。

労働法制改悪

「時間外労働の上限規制が罰則付きで導入きれる予定である。これは、1947年に制定された労働基準法70年の歴史の中でも画期的な改正といえる。」
「上限規制により、時間外労働は、原則月45時間以内かつ年360時間以内とされ、臨時的な特別の事情がある場合(特例)についても、休日労働を含め時間外労働は単月で100時間未満、1カ月平均で80時間以内とするなど、絶対的な上限が設定される。」とある。
 しかしながら1年で700時間以上の延長時間を締結している企業の割合は29・4%である。これをきちんと月100時間未満にすることができるかどうか? 医者や自動車運転は5年の猶予、先送りが決まっている。例外を設けてうやむやにする可能性もあるのではないか?
 特に「柔軟な働き方の実現」と称して残業代ゼロ法を押し通そうとすることと、時間外労働の条件規制は一体なのだ。
「高い専門性と創造性が求められる業務が増えている。こうした業務に従事する労働者の働き方は、必ずしも労働時間に比例して成果が得られるものではなく、生み出した成果に基づき公正に評価・処遇することで労働者の満足度を一層高めることができる。しかし、現行の労働基準法は、時間外労働に応じて割増賃金が発生する仕組みとなっており、成果に応じて評価・処遇することがふさわしい働き方には適応しにくく、実態を踏まえた制度の整備が必要である。」
 これが残業代ゼロ法の論理であり、「柔軟な働き方」なのである。

同一労働同一賃金の実現?

 同一労働同一賃金の実現に向けてパートタイム労働法、労働契約法、労働者派遣法の一括改正を行う。今回の改正法案には、大きく3つのポイントがある。「第一は、企業内における通常の労働者(無期雇用フルタイム)とパートタイム労働者、有期契約労働者、派遣労働者の間の不合理な待遇差の禁止を、基本的に同様のルールで規定している点である。具体的には、現行のパートタイム労働法の『均等待遇』の規定を有期契約労働者にも適用するとともに、派遣労働者に対しては、遣先の労働者との均等待遇・均衡待遇(以下、派遣先均等・均衡方式)か、一定の要件を満たす派遣元における労使協定に基づく待遇(以下、労使協定方式)のいずれかの実施を派遣元に義務付ける。」(64頁)と書かれている。
 ここの部分は非常にわかりにくい。端的に言えばここにインチキがあるからだ。ここは99頁の「同一労働同一賃金の実現に向けた賃金制度の在り方」の章とつなげて読むとその考え方が見えてくる。
「期待する仕事内容や役割、育成などに関わる雇用方針を明確にすることである。加えて、パート・有期契約仕員の雇用契約期間や、契約更新のあり方も検討しておく必要がある。…正社員と賃金の決定方法が異なる理由や、待遇の違いが不合理でないことを説明できるように準備しておかねばならない。」(99頁)
 均等待遇、均衡方式と言いながら「待遇の違いが不合理でないことを説明できるように準備」せよということを強調している点に眼目がある。違いが不合理でないと説明できるようにしておけ、「不合理でないとの説明が可能かどうかという観点から確認」しろと書いている。正規と非正規が均等なわけがないのである。それを実現する場合はクレディセゾンのような「役割等級制度」を導入して正規も非正規も一緒にして完全能力主義、評価制度を導入するのが好ましいということになる。以下の記述はそういうことを意味している。
 「特定の職務遂行を期待する(または職務遂行した)ことへの対価と捉えるとすれば、パート・有期契約社員にも特定の職務遂行を期待している場合は同一の支給をしていくことが考えられる」(101頁)
 「役割等級制度」というのは同一賃金同一労働の検討会で出されている評価制度の方法で年功や経験を完全に排除して、非正規労働者四半期ごとに個々人の役割に見合う賃金を労使協議で決めて、5段階の最高位の賃金を1ランクにバッサリと落とすようなことが可能な差別と分断、競争をあおりたてる賃金制度にするということだ。

非正規という言い方はネガティブだから表現を変えよと

 「いわゆる正社員以外の雇用形態を総称する際に、一般的には『非正規労働者』あるいは『非正社員』などという言葉が使われていることが多いが、極めてネガティブな印象を与えるものである。いつまでも正社員か否かという二元論的な観点からの呼称を用い続けることは、多様な働き方の拡大を妨げることになりかねない。自らの職務に誇りを持って就労している者の思いを損ねる呼称の使用は避けるべきである。」(67頁)だからスタッフ社員とかパートナー社員とかという言い方に変えよと述べている。しかし、非正規の現実をパートナーに変えても非正規の現実は変わらない。これこそペテンである。ネズミ色をグレーと表現しても同じ色であることに変わりない。

兼業・副業禁止をやめろ! と働き方改革

 「社員の副業・兼業を制度として『認めていない』とする企業は、全体の85. 3%にのぼる。自社の業務への支障など懸念点が多いことに規則等で原則禁止している。こうした中、政府は、働き方改革実行計画」(2017年3月決定)において、副業・兼業は、新たな技術の開発や、オープンイノべーション・起業の手段、第2の人生の準備に有効であるとの考えに立ち、原則認める方向で普及促進を図るとした。同計画では、本業への労務提供や事業運営、自社の信用・評価に支障が生じる場合等以外は、合理的な理由なく、副業・兼業を制限できないことをルールとして明確化するなどの方向性を示した。」(76頁)
 兼業禁止を就業規則で定めている企業は多い。違反したら解雇だ。しかし「働き方改革実行計画」では兼業を認めろとしているのである。ダブルジョブ、トリプルジョブを行って一企業で非正規雇用で働いている現実を容認しようというのだ。複数の企業で働くということは1日に二日分働くということもあり得る。過労死の危険があるから禁止されてきたのだ。それを「副業・兼業を行う者は、副業・兼業先で役員や個人事業主となっていることが多く、労働基準法における労働者に該当しない働き方をしている。」(76頁)などというデタラメを言ってごまかしている。非正規雇用の低賃金をダブル、トリプルジョブを行って解決しろというとんでもないことが働き方改革会議で議論されているということである。

基本給の見直し

 「法改正を契機として、自社の賃金制度全体の見直しを検討ずる場合は、基本給のあり方について整理することが必要になる。その際に重要なことは、雇用形態の違いではなく、前述の雇用方針に基づいて基本給のあり方を考えることである。その結果として、仕事・役割の価値と成果の大きさに応じた支給とすることも一案となる。…諸手当等には、基本給では十分に対応できない部分として付与していたものが多いことから、基本給の見直しにあたっては、基本給への組込みや廃止なども視野において考えることが適当である。」
 これまで手当として支払われていたものを廃絶して基本給に組み込め。基本給も従来の基本給ではなく完全な成果給、能力給にすべきと断じているのである。大坂シティバスの能力主義の賃金制度の導入のようなあり方を普遍化させるということである。「働き方改革国会」とタイアップした経営労働政策特別委員会報告だ。弾劾あるのみである。